
カスタマーサクセスにおけるKPIの重要性と追うべき指標とは?
- カスタマーサクセスはsaas市場において顧客の継続率を高めるために重要とされている。
- その中で、顧客の継続率をより高めるためにカスタマーサクセス部門でのKPI設定が必要となるが、設定の方法がわからない企業も少なくない。
- KPIはただ設定すればいいだけでなく、データの統合や社内でのコミュニケーションによって達成できる可能性を高めることができる。
カスタマーサクセスは、顧客の継続的な関係維持が重要なサブスクリプションビジネスにおいて欠かせないものとして普及しています。
しかしながら、「どのようにしてカスタマーサクセスを行えばいいかわからない」「カスタマーサクセスに適したKPIがわからず設定できない」などの悩みを抱えている企業が多くあります。
そもそもカスタマーサクセスに求められていることは、効率的に顧客の満足度を向上させることにあります。
この顧客の満足度を正しく測り顧客の理解を深めるために、カスタマーサクセスKPIは必要なものとなってきます。
この記事では、カスタマーサクセスとは何か、顧客の満足度を正しく測りカスタマーサクセスを成功に導くためのKPIとは何かを紹介します。
以下の記事では、顧客体験最善化のためのカスタマーサクセス変革の重要性と行うべきことについて紹介しています。ぜひご活用ください。
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カスタマーサクセスとは?
カスタマーサクセスとは、顧客の商品購入後に最高の顧客体験を実現させることです。
近年、市場が拡大しているSaaS市場において、LTVは重要な指標となっています。そのLTVを高めるためにカスタマーサクセスが注目を浴びています。
カスタマーサクセスがもたらすメリットとして、顧客の製品に対する習熟度の最大化による顧客定着率の向上や、顧客とのやりとりによって得られる洞察によって、製品サービスの改善や健全な顧客ライフサイクルの構築が可能となることが挙げられます。
競争率の高いSaaS市場において収益を上げるためには、他社との差別化や顧客を維持する方法を見つける必要があります。
「顧客を成功に導く」ことがミッション
カスタマーサクセスのミッションとして「顧客を成功に導く」ことが挙げられます。自社の成功の前に顧客の成功を考えることで、結果として自社の収益の向上やブランドイメージ向上につながります。
受動的な顧客への働きかけはカスタマーサクセスではなくカスタマーサポートとなります。カスタマーサポートは顧客からの質問に対応するだけで、自社から顧客へ働きかけることはありません。
カスタマーサクセスでは契約開始時点から顧客との関係が始まり、オンボーディングの実施などの顧客の成功のために継続的なフォローをし続けていきます。能動的であり、顧客からの要望がなくとも積極的に働きかけていきます。
その際に、「顧客の目標達成は自社の利益と同じ」という目線を持つことが重要となってきます。
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カスタマーサクセスにおけるKPI
ここまでで、カスタマーサクセスの重要性についてお伝えしてきました。では、カスタマーサクセスの成功のために、なぜKPI設定が重要なのでしょうか?
ここからはカスタマーサクセスのKPI設定の重要性と、KPI設定によってもたらされるメリットについて紹介します。
なぜKPI設定が重要なのか
自社の収益を上げるためには顧客のニーズに積極的に対応し、ユーザーを成功に導く必要があります。顧客のニーズや製品サービスの満足度を把握するために、カスタマーサクセスが追い求めるべき指標であるKPIを設定することが重要となります。
適切なKPIを追い求めることによって顧客の理解が進み、以下のメリットを享受することができます。
顧客生涯価値を高める
顧客の理解を深め、求めているサービス内容や適切な価格設定などによって顧客満足度の向上を測ることができます。製品やサービスに対する満足度が高い顧客は、継続的に製品サービスを購入してくれるため、長期的に収益をもたらしてくれる顧客となります。
アップセルの機会を最大化
顧客が感じる製品の価値を高めることによって、顧客はより多くの金額を製品サービスに支払っても良いと考えます。顧客が受け取る価値を最大化することによって、顧客から受け取る価値も最大化することができるようになります。
そのためには顧客とのオンボーディングから顧客が自社から得たいと考えていること、顧客の成功の指標、顧客が製品サービスを使用したときの成功の定義などを理解し、KPIから得られる顧客満足度からアップセルのタイミングを見計らうことが重要です。
ロイヤリティを高める
カスタマーサクセスの取り組みによって顧客満足度が向上すると、ブランドロイヤリティを高めることが可能となります。
これらの満足した顧客は、他社に自身が利用したサービスについて話す可能性が高いです。
『The Value of Keeping the Customer (Harvard Business Review)』の調査によると、優れた顧客体験をした顧客のうち23%は10名以上に自分の体験を語っているというデータもあります1)。
顧客満足度を向上させブランドロイヤリティを高めることは、口コミマーケティングにつながります。
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カスタマーサクセスKPIの例
カスタマーサクセスKPIの設定の重要性が理解できたところで、実際にカスタマーサクセスが追い求めるべき指標とそれぞれのKPI設定の目的について紹介します。
解約率(Churn rate)
解約率とは、サブスクリプションのキャンセルやアカウントの閉鎖など失った顧客の数を一定期間で計測したものです。
解約率を把握することは、顧客の離脱原因や原因分析に利用することができます。
SaaSの場合、解約やアップセルなどの収益の変動があるため、顧客数よりも収益をベースにしたNet MRR Churnで計測する方が正しい収益を把握することができます。
Net MRR Churnの計算方法
MMR Churn -(アップセルMRR + 休眠顧客の復活MRR)/先月末時点でのMRR
例として、当月に失ったMRRが20、当月の増加したMRRが40、先月のMRRが1000の場合
20ー40 ÷ 1000 × 100= -2% となります。
Net MRR Churnでは、アップセルやクロスセルがうまくいった場合、計算式がマイナスになります。1%以下であるならば、解約率は低く顧客維持ができていると考えて良いでしょう。
NPS(ネットプロモータースコア)
NPS(ネットプロモータースコア)は顧客ロイヤリティを測る指標として使います。顧客が企業やブランドに対してどれだけ愛着や信頼があるかを測ることが可能です。
NPSはブランドに対する顧客の全体的な認識の尺度として使用します。このNPSにカスタマージャーニーのさまざまなポイントから得た他の使用やインサイトを補完することによって、顧客体験のパフォーマンスに関する実用的な気づきを得ることができます。
NPSの測定方法
NPSを計測するには顧客に二つの質問をします。
「0 から 10 のスケールで、このブランドを友人や同僚に勧める可能性はどのくらいですか?」
「点数の理由を伺ってもよろしいでしょうか」
先ほどの質問から得られた数字を集計し、全体の割合を算出します。
①プロモーター(スコア8-10)
熱心に自社のサービスや製品を購入し続け、他の人に紹介し、企業の成長を促進してくれます。
②パッシブ(スコア6〜8)
満足していますが、熱心な顧客ではありません。競合製品に乗り移る可能性もあります。
③中傷者(スコア0〜6)
これらの顧客はネガティブな口コミを行い、ブランドのイメージを傷つける可能性があります。
①のプロモーターの割合から、③の中傷者の割合を差し引くことによってNPSを得ることができます。スコアの範囲は-100から100までの間になります。
月間経常収益(MRR)
毎月のビジネスの収益を予測可能にした指標です。MRRの把握によって財務実績に関する短期的な洞察を得られるだけでなく、収益と経費の照合によって自由に使えるリソースを把握することが可能になります。
MRRの計算方法
MRR=前期MRR+(New MRR+Expansion MRRーDowngrade MRRーChurn MRR)
例として、1ヶ月に新規の顧客が5人増え、それぞれが月額100ドルのサービスを支払っているとします。一方月額100ドルを支払っていた既存顧客の10人のうち5人が月額200ドルのアップグレードをしました。また、3人の顧客が解約しました。
この場合、以下の式になります。
MRR=100 × 10+(100 × 5+100 × 5ー0ー100 × 3)
この場合、MRRは1700ドルとなります。
New MRR(新規MRR)
1ヶ月に獲得した顧客から得られる追加収益のことです。
Expansion MRR(アップグレードMRR)
前月と比較して、1ヶ月のうちに既存顧客から獲得した追加の収益のことです。アップグレードやアップセル、クロスセルによって生み出されます。
Downgrade MRR(ダウングレードMRR)
1ヶ月のうちに、顧客が既存サービスから下位のサービスに移行した際に減少した収益のことです。
Churn MRR(解約MRR)
1ヶ月のうちにサブスクリプションのキャンセルが原因でビジネスを失った金額です。
ユーザー当たりの月間平均収益(ARPU)
ユーザー当たりの月間平均収益とは、一定期間にユーザーごとに受け取った平均収益のことです。
ユーザー当たりの月間平均収益を求めることで特定の収益目標を達成するためにどのくらいの新規ユーザーが必要なのかがわかります。また、マーケティング担当者はキャンペーンや広告ネットワークなどのチャネルごとにユーザー当たりの月間平均収益の比較によってユーザーの質を把握し、広告費用効果を判断することができます。
ユーザー当たりの月間平均収益の計算方法
ユーザー当たりの月間平均収益(ARPU)=MRR ÷ アクティブユーザー数
例えば、MRRが1700ドルの月のアクティブユーザー数が10人の場合
ユーザー当たりの月間平均収益(ARPU)=1700 ÷ 10
よってユーザー当たりの月間平均収益は170ドルとなります。
顧客のLTV
LTVとは顧客生涯価値のことを指し、顧客が自社自社との取引を開始から終了までに、どれほどの利益がもたらされるのかを表す指標です。LTVの向上のためには顧客との良好な関係継続が重要となります。
LTVの把握は、利益を継続的に獲得できているかの指標となり、優良顧客の傾向把握、顧客維持コストの目標値設定などの経営判断を行う上での指標として重要です。
LTVの計算式
LTV=平均購入単価 × 平均購入回数 × 平均継続年数
LTV=ARPU(ユーザーあたりの平均収益)/ Churn rate(解約率)
平均購入単価
1年間当たりに顧客が自社商品・サービスを購入した際の1回の購入単価
客単価(円)=売上高(円)/ 客数(人)
平均購入回数
1年間当たりに顧客が自社商品・サービスを平均して何回購入したか
平均継続年数
顧客が自社のサービスを利用し始めてから継続して利用し続けている期間
例として、ARPUが5000ドルで、解約率が3%のケースで計算してみましょう。
解約率からこのケースにおける顧客の平均継続期間は約33ヶ月のため、LTVは約166,000ドルとなります。
解約率を用いている計算式は、SaaS系ビジネスなどの利用期間の区切りがない場合に用いられます。
こちらの記事では、カスタマーサクセスがもたらす効果とあわせてカスタマーサクセスの成功事例を紹介しています。
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カスタマーサクセスKPI達成のためには?
適切な指標を設定する
KPIの設定方法がわからず他社を真似て失敗してしまうケースがよくありますが、自社の商材や特徴を加味した上でKPIの設定を行う必要があります。
KPIを設定する際には、測定したい分野とその測定によって、ブランドにどのような成功がもたらされるのかを明らかにしましょう。また、下記を考慮すれば目的に沿ったKPI設定を行うことができるようになります。
KPIの決定の際に考慮すべき事項として以下が挙げられます。
- 長期及び短期の目標
- ビジネスの規模と場所(オンラインかオフラインか)
- ビジネスの発展段階
また、KPI設定後に実際にビジネスにとって効果的であるかを測るためには以下のことを確認しましょう。
- 短期及び長期のパフォーマンスを計測
- ビジネスに直接的な影響を与えるか
- 定量化可能で追跡が容易
- 社内の誰もが理解できるか
これらを意識することによって自社に適したKPIを設定することが可能となります。
コミュニケーション
KPI達成は、ただKPIを設定し日々の業務を坦々と行うだけでは難しいでしょう。社内やカスタマーサクセス部門間でなぜこのKPIを設定したのか、どのようにしてに達成していくのかを共有することがKPI達成への近道となります。
なぜこのKPIなのかの理由を伝える
社員間でKPIの背後にあるロジックについて理解を深めることで、KPI達成に近づきます。
決定したKPIが設定されている理由を、いくつかの設定例と成功事例と共にチームで共有することによって、社員のKPIへの理解を深めることができます。
KPIへの理解が深まれば、KPI達成のために自身が行うべき行動や工夫などに気づきやすくなります。
これらの行動の変化や新たな気づきによって業務が改善され、今まで以上の効率を発揮することができるようになります。
KPI達成の方法を共有する
先ほどのステップで、チームは「KPIとは何か」「なぜKPIが重要なのか」を理解することができます。次に焦点を当てるべきは達成するための方法です。
「目標/KPI達成のために、重点的に取り組むべきことは何か」「これらの領域で必要なアクションは何か」をチーム内で話し合いましょう。
この話し合いによって目標とKPI達成のための道筋が示されれば、無闇矢鱈に方法がわからないまま突き進むよりも、何をどのように行えばいいのか分かり易いため、各社員のモチベーションの向上につながります。
散らばったデータの統合
KPIの設定後、高い精度でKPIを測定するためには、さまざまな部門やチームから異なる多くのデータを集める必要があります。一つの部署で偏ったデータだけを集めて測定すると、KPI測定も偏ってしまいます。また、集計したデータだけでは測れないKPIも出てくるかもしれません。このようなことが起こらないようにするためには、社内の各部門とのデータの統合を行う必要があります。
データの統合、連携によって今まででは得ることのできなかった顧客の属性データや行動データが集計できるようになります。CRM・SFAツールでは案件の進捗と、メンバーのやり取りから顧客の性格や興味関心の解像度を上げることが可能になります。得られたデータにこのようなインサイトを加えることによって、より優れた気づきを得られる可能性があります。
これらからロイヤルカスタマーの特性や、チャーンが発生した顧客の共通点などを見つけることも可能です。
ここでは、カスタマーサクセスのデータ分析によって、顧客の理解が進みLTV向上やアップセルの機会の最大化についてお話させていただきました。
データの質の悪さによって、データ活用プロジェクトはうまくいかない場合も多くあります。
こちらの記事では、データの質の低さによって起きる弊害、その解決策について解説しています。ぜひご活用ください。
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《引用文献》
1) Amy Gallo. The Value of Keeping the Right Customers. Harvard Business Review. October 29, 2014, https://hbr.org/2014/10/the-value-of-keeping-the-right-customers, (参照 2023-03-01).
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