MRRとは? SaaSビジネスにおける重要指標から改善施策を解説

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要約SUMMARY
  • MMR とは月ごとに繰り返し得られる収益のこと。
  • MMR は、 MRR = 前期 MRR+(New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR)で計算される。それぞれの4つの変数の意味と重要性を知ることが改善へのスタート地点となる。
  • 投資家など社外のステークホルダーは、成長性・効率性・継続性の3点からMRRに着目する。

サブスクリプションビジネス型の商品や、SaaS の増加に伴い、企業や投資家の間で MRRという概念が注目されています。

毎月繰り返し得られる収益を指し、事業の成長状況を図る重要な指標となるため、耳にした方も多いのではないでしょうか。

本記事ではそんな MRR について、定義から活用シーン、改善・向上のための施策までお伝えします。

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MRRとは

まずは MRRとは何かについて順に見ていきましょう。

MRR とは

MRR(Monthly Recurring Revenue)は日本語では月次経常収益と訳され、月ごとに繰り返し得られる収益のことを指します。初期費用など1度限り発生する収益は除いて、ある月に定常的に発生する収益を表す指標です。つまり、自社にとって、毎月定常的に発生する金額を定義しておく必要があります。

継続的に MRR が増加しているということは自社のサービス顧客に受け入れられており、事業の成長を見込めることを指します。

MRR の計算方法

ある月の MRR は以下の計算式で把握します。

MRR = 前期 MRR+(New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR)

・前期 MRR:前月の MRR の値

・New MRR:当月に新規顧客から得られる MRR

・Expansion MRR:既存顧客のより高いプランへのアップグレードから得られる MRR

・Downgrade MRR:下位プランへダウングレードして減少した顧客の MRR

・Churn MRR:サービス解約により減少した顧客の MRR

それぞれの MMR について、詳細は次の段落でご説明します。

計算時の注意点

  • 初期費用や追加購入費用など1回だけしか発生しない売上は、MRR から除いて計算する。
  • サブスクリプションの契約期間が年間、半年など複数存在する場合には、それぞれを月額に換算したうえで計算する。
  • 料金の異なる複数のサービスを提供している場合は、そのサービスごとに MRR を計算する。

4種類のMRR

MRR には以下の4種類があります。これらを複合的に検討し当月の MRR の値を把握します。

New MRR

New MRR は新規顧客から得られる MRRです。SaaSビジネスの売上を決定する重要な要素の1つで、New MMR を把握することで事業の成長性が把握できます。また特に新規事業など、サービスを開始して間もない時期には New MMR が重視されます。

新規顧客を獲得するためのコスト(顧客獲得コスト:CAC)が適切かを判断する際の指標としても New MRR は利用されます。投資対効果を考える際に、広告やマーケティング費用に対して、New MRR をリターンとして計算できるからです。

New MRR/CAC の比率が低いケースでは、サービスの価格が最適化されていなかったり、マーケティングや営業の獲得効率が悪いことを示します。

このように、New MRR は事業の成長度合いや新規顧客獲得における費用対効果を測る指標として重要です。

Expansion MRR

Expansion MRR は、既存顧客からの追加収益を把握する指標として活用します。

企業が追加収益を上げるためには、より高価な商品・サービスへのアップグレードなどによるアップセルや、他の商品・サービスと併せて購入を促すクロスセルが考えられます。Expansion MRR にはアップセルやクロスセルによる定期的な収益の増加分を全て含みます。

また、一般的に新規顧客獲得に比べて、既存顧客へのアップセルやクロスセルの方が達成にかかるコストが抑えられ収益性が高いと言われています。

Expansion MRR を活用することで追加収益を適切に把握することができます。また、既存顧客からの追加収益があるということは、既存のサービスに対して顧客が満足していることでもあります。このような理由から Expansion MRR は顧客満足度を測る指標としても活用されています。

Expansion MRR を増加させるには、利用者の声を積極的に聞き、機能・サービスの向上を図るとともに新サービスの提供などを通じて顧客満足度を高めることが重要です。

Downgrade MRR

顧客が利用している自社のサービスのプランを上位プランから下位プランへダウングレードした場合など、定期収益の額がどのくらい減少しているのかを測る指標です。減少 MRR とも呼ばれます。Downgrade MRR が少ないほど、事業の健全性が高いと言えます。

Downgrade MRR の要因には、自社サービスに満足できていない場合や、提供している機能を顧客が使いこなせていない、またはニーズの変化に気づくことができなかったなどが挙げられます。原因を把握し、適切な対応を該当顧客や他の既存顧客に提供するなど、対策を検討することが重要です。

Churn MRR

New MRR とは逆に、既存顧客のサービス解約に伴い減少した MRR を指し、解約 MRR とも呼ばれます。

サブスクリプションビジネスにおいては、従来のオンプレミス型の提供方法とは異なり、初期費用を抑えて導入障壁を下げつつ、長く利用してもらうことで安定的な成長を目指しています。そのためいかに顧客に長くサービスを利用してもらえるかが収益面においても重要です。

Churn MRR が大きいと、どれほど新規顧客を獲得できてもバケツに穴があいた状態で水を入れているようなものですので、いかに Churn MRR を抑えられるかが SaaSビジネスにおける肝とも言えます。サービスの課題把握や顧客視点に立った問題解決を通じて、Churn MRR を小さく保つことが不可欠です。

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MRRが活用されるシーンは?

MRR はサブスクリプション型サービスを展開している企業にとっては非常に有用です。MRR の値そのものの推移を追うだけでも事業の成長度合いを把握できますが、MRR の活用シーンは他にもあります。以下に2つの活用シーンをご紹介します。

投資家の評価指標として活用

SaaS などのサブスクリプション型ビジネスにおいて、投資家は成長性・効率性・継続性の3点からその事業・企業が投資に値するかを判断しますが、中でも成長性を示す指標として最も重要視されるのが MRR です。

創業期の企業では顧客数が順調に増えているかを判断する指標として New MRR に注目しています。一方で事業が安定してくると、顧客ロイヤルティを測る指標として Churn MRRや Downgrade MRR を、またアップセル・クロスセルの成否を示す Expansion MRR にも注視します。

後ほど説明する MMR の増減率を示す Quick Ratio や 売上継続率を示す NNR (Net Retention Rate)を示すことで、将来期待できる四半期や翌年の収益を知ることができます。

SaaS などのサブスクリプションビジネスでは、収益の発生が長期化するため、企業バリュエーションを従来の損益計算書で計るのは困難です。

SaaS Quick Ratio の算出に活用

SaaS Quick Ratioとは、SaaS ビジネスの成長率を測るための指標です。詳しくは次の項目でご案内します。

SaaS Quick Ratioとは?

SaaS Quick Ratio とは成長率を把握するための指標の1つで、以下の計算式で算出されます。

SaaS Quick Ratio (%) = ( New MRR + Expansion MRR ) ÷ ( Downgrade MRR +  Churn MRR)

MRR の増加分を減少分で除することにより、増加と損失のバランスを把握しますが、計算結果の値によって以下のように判断ができます。

  • 1未満:事業は縮小中で、将来性は極めて低い
  • 1以上4未満:プラス成長をしているものの、新規顧客獲得等に行き詰まったり、獲得コストが高ければ、成長がストップすると考えられ、時間の経過とともに縮小に向かう可能性が高い
  • 4以上:事業は好調に成長している

事業開始してから1年ほどは解約率も低いため、SaaS Quick Ratio は投資家にはあまり注目されません。立ち上げから1年半ほどすると解約なども出てきますので投資家はSaaS Quick Ratio に注目します。

この時点で4以上の高い数値をキープできていれば、顧客ロイヤリティも高く、順調に成長が続いていると判断されやすくなります。

MRRとARRとの違い

MRR と似た指標として ARR( Annual Recurring Revenue )があります。日本語に直すと、MRR は月次経常収益であるのに対し、ARR は年間経常利益をさします。

MRR を1年分つみ上げた数値ですので、本質的な意味合いは MRR と同じです。ARR の用途としては扱っているサービスが年間契約の場合などがあります。自社のサービスが月額制サービスか年間契約かによって使い分けると良いでしょう。

MRR を改善・向上するための施策の提案

MRR が意味するところと、 SaaS型ビジネスにおける重要性を解説してきました。ここからは MRR を改善し、継続的な売上を増加させるために検討すべき施策等について、各 MRR ごとにお知らせします。

New MRR

New MRR においては、新規顧客の獲得が大前提となります。そのため、見込み客(リード)を増やしたり、成約率を向上させる等のマーケティングや営業の施策が重要です。

例えば、サービス理解を促し、興味を持ってもらうために無料トライアルを用意するなど見込み顧客を購入に促すための施策も工夫しながら成約率を高めることで、New MRR の向上を目指すのが有効と言えます。

注意すべきことは、獲得効率です。ある見込み顧客から期待できる MRR が獲得コスト(CAC)に対して効率的であるのかを気にする必要があります。特に、アップセルやクロスセルが見込めず、解約率も高い状態でればコストを回収できない可能性もあります。

下の図のような Magic Number という指標がオススメです。コストに対して、マーケティングや営業活動が効率的に行われているのかを知ることができます。

下の図のベンチマークと自社の Magic Number を照らして投資判断に活かしましょう。例えば、0.5を下回っているのであれば、分業化や獲得チャネルごとの ROI、リードタイムを可視化することで、獲得効率の改善につなげることができます。

Expansion MRR

Expansion MRR の改善においては、商品・サービスオプション導入や関連サービスの付加等を行い、顧客単価を上げる必要があります。方法としては前述のアップセル、クロスセルの検討が挙げられます。

アップセル

アップセル(顧客に上位の商品を提案し購買してもらう)を顧客に検討してもらうためには、アップグレードすることでどんなメリットがあるかを顧客に理解してもらい興味を持ってもらうことが必要です。つまり、顧客ニーズを把握していくことです。

そのためにも、いわゆるカスタマーサクセスの役割が重要になります。推定 LTV(顧客生涯価値)が高い顧客のサービスの利活用を能動的にサポートし、顧客の事業の成功に貢献するカスタマーサクセスの存在は、SaaSビジネスには欠かせない存在になっています。

クロスセル

クロスセル(顧客が購入しようとしている商品と異なる商品を提案し購買してもらう)を行うには、「より効果を出すには一緒に購入したほうが良い」と思ってもらえるきっかけ作りが不可欠です。

アップセル、クロスセルともに、顧客目線で考えた上でそれを行ってもらうことでどんなメリットが生まれるかを正しく伝え顧客に理解してもらうことが欠かせません。また、アップセルやクロスセルは解約率が高まるとともに、機会損出のリスクも高まります。

Downgrade MRR

新規顧客を獲得したり、アップセル、クロスセルで顧客単価を上げることに成功したとしても、同時にサービス利用を縮小されたりしては、MMR の向上にはつながりません。

Downgrade MRR の改善については、サービス・商品そのものの品質向上を検討するとともに、顧客の声を積極的に集め、Q&Aはフォローアップの機会を設けてサポート体制を整備することが重要です。これによって顧客の継続的なサポートができれば Downgrade MRR の改善にも繋がります。

具体的にはカスタマーサクセス部門を設けて対応にあたる、メールやチャット等で利用者のアフターフォローをできる機能をつけるといった対応が挙げられます。

特に、Downgrade MRR と次に説明する Churn MRR の改善には、「顧客にとっての価値とは?」を言語化・定量化していくことが大切です。そのためにも、顧客のことを知ること。定量的かつ定性的な顧客に関するデータとそれを計る測定基準が大切になります。

Churn MRR

Churn MRRが大きいと、穴があいた容器に水を入れ続ける状態が発生しますので早急な改善が必要です。多くのSaaSビジネスではまずこの Churn MRR の改善を最優先で行います。

Churn MRR が高くなればなるほど、MMR が増加する機会が失われます。また、LTV/CAC であるユニットエコノミクスの比率が低い状況と重なってしまうと、赤字になるリスクが高まります。逆に言えば、獲得コストが高く不健全な営業活動によって LTV/CAC が低くとも、Churn MRR が低ければ利益を上げられる可能性が高まるということです。

本記事では、MMR の概要から計算方法それぞれの変数を改善する施策を紹介してきました。ただ、より重要なことはこれら施策を自社のロードマップに落とし込み、戦略の策定からオペレーションに落とし込むことです。

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また、以下の記事では SaaSの立ち上げから拡大までの基盤と営業の仕組みづくりについて解説しています。併せてご活用ください。