Product Led Growth とは?新SaaS KPI

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要約SUMMARY
  • Product Led Growth(PLG)は「プロダクトがプロダクトを売る状態(Product sells itself)」を目指す戦略を指す。
  • PLGの本質を理解するための4つの柱として、Product、Marketing、Pricing、Salesが挙げられる。
  • PLGの営業活動では、セールスチームがユーザーがサインアップした後に活動し、プロダクトの利用率とタイミングに応じたアップセル提案を仕掛ける。
  • PLGを活用する際のKPIには、従来のSaaSモデルとは異なる指標が利用される。

PLGとは、OpenView(米ベンチャーキャピタル)が提唱した考え方です。同社のブログで以下のように定義されています。

“Product-Led Growth is a go-to-market strategy that relies on product features & usage as the primary drivers of customer acquisition, retention and expansion.”

(Product-Led Growthとは、顧客の獲得、維持、拡大の主な要因として、製品の機能と使用方法に依存する市場戦略です。)

PLGを戦略として活用する代表的な企業には、Slack、Zoom、DropBoxなどが挙げられます。

PLG企業の評価額は伸びており、更に上場後も高い成長率を維持しています。ソフトウェア銘柄全般に比べ2倍以上高い企業価値で評価されています。

「Product Led Growth Index, OpenView Venture Partners」の画像を元に Magic Moment 作成

出所:What is Product Led Growth? How to Build a Software Company in the End User Era, Blake Bartlett(2020)

Product Led Growth(PLG)とは?

PLGは「プロダクトがプロダクトを売る状態(Product sells itself)」を目指す戦略を指します。

PLGは「Product sells itself」、つまりプロダクトがプロダクトを売る状態を目指すのに対して、Sales-Led Growth(セールス・レッド・グロース、SLG)は「Sales sells product」つまりセールスがプロダクトを売る状態を目指します。SLGの代表格には、SalesForceが挙げられます。

SLGは「プロダクトはセールスが価値を伝えるもの」という発想に立った戦略であり、下記のようなプロダクトに適した戦略だとされています。

  • プロダクト活用パターンが多く、個社に応じた提案が必要
  • 新しいマーケットでユーザーの啓蒙が必要
  • ニッチなセグメントで、セールスが全潜在顧客に直接アプローチできてしまう
  • 顧客単価が高く、導入の意思決定に役員クラスの決裁が必要

「【解説】SaaSの新戦略。Product-Led Growthの全貌 | 高野泰樹」を元に Magic Moment 作成

Product Led Growth(PLG)を理解するフレームワーク

Product Led Growth(PLG)の本質を理解するための4つの柱として、Product、Marketing、Pricing、Salesが挙げられます。この4つの要素について、What the heck is Product-led Growth?に基づいて解説します。

Product(製品)

PLGは、プロダクト(製品)そのものが価値を伝えるプロダクトドリブンの戦略ですので、プロダクト自体に際立つ価値が求められます。多くのSaaS事業で価値あるプロダクトの提供が試みられていますが、PLGを実現するプロダクトでは、シンプルで価値を感じやすいプロダクトであることが重要です。

価値のあるプロダクトを実現するためには、以下の原則に従う必要があります。

  • Start with real user pain(ユーザーの不便を取り除くことから始める)
  • Deliver value immediately(価値をすばやく届ける)
  • Strip out the uncritical(重要でないものを取り除く)
  • Make the product stick(プロダクトをそれなしでは仕事にならない状態にする)

PLGのプロダクトは、多くのエンドユーザーに利用されることが前提となっているので、数多くのユーザーからの支持を得られるかどうかが必須だといえます。

例えばDrobboxでは、ファイルをいちいちメールに添付して送付する、容量が大きいと送れない場合もあるというような不便を取り除き、URLを送付、受け取った側はワンクリックするだけですぐに使用することができます。会社内でDropboxを日常的に利用する場合、それ無しでは仕事を進めるのが困難になります。

Marketing(マーケティング)

PLGにおいては、プロダクトそものもがマーケティングを行う存在です。プロダクトが顧客への認知度を高める役割を担っており、これをバイラリティ(virality)と表現します。

PLGでのマーケティング原則として、以下の要素が挙げられます。

● Your product is a marketing channel(プロダクトがマーケティングチャネルである)

● Enable virality, internally and externally(内にも外にもバイラルできる仕組みを持つ)

● Target users, not just buyers(買い手だけでなく、使い手もターゲットにする

例えばDropboxでは、Dropboxユーザーでない人にファイルを共有するURLが渡された場合、URLをクリックするとDropboxの存在を知ることとなります。PLGでは、このようにプロダクトそのものに認知を高める仕掛けがあることを「Enable virality」と表現します。

Pricing(価格)

PLGにおいて、プライシング(価格設定)も重要な要素です。多くのPLGでは、トライアルモデルかフリーミアムモデルが採用されます。

PLGでのプライシングの原則として、以下の要素が挙げられます。

  • Remove any barriers from initial usage(初期利用の障害を取り除く)
  • Enforce paywalls only after value(価値を感じられた後のみペイウォールを発動する)
  • Expand customers with scalable expansion paths(スケーラブルな料金体系を用意する)
  • Use product data to upsell users(プロダクトの利用率に応じてアップセルを仕掛ける)

特徴の1つとして、サービスの利用規模に応じた料金体系が用意されています。これはフリーミアムにおいて一般的な手法ですが、ユーザーがサービスをより活用したいと考えたときに拡張しやすいプランを用意しておくという意味で、利用規模別の料金が提供されます。

特徴の2つめに、プロダクトの利用率を手がかりにアップセルを仕掛けていくことがあります。データドリブンのアップセルでは、プロダクトの利用率に応じたターゲティングと、タイミングでの提案が可能となります

Sales/Customer Success

サービスを購入する際のセールス、購入後の顧客関係を構築するカスタマーサクセスは、PLGにおいても重要です。原則として以下の要素が挙げられます。

● Customer success is your north star(カスタマーサクセスこそが羅針盤である)

● Be a product evangelist(誰もがプロダクトのエバンジェリストたれ)

● You empower self-service(セルフサービスに力を込めよ)

● Create opportunities for up-sell(アップセルの機会を創出せよ)

従来型のアップセル提案と、PLGのアップセル提案の違いについては、後述します。

Product-Led Growth成功のカギ

上記4つの柱を踏まえた、Product-Led Growthで成功するカギとして、「Call To Action(CTA)」と「Personalize」が挙げられます。

Call To Action(CTA)

CTAとは、特定のイベントが発生した際に、何らかのアクションを取ることを指します。ユーザーが特定の状態となった時や何か行動を起こしたときに、システムによって自動的に通知を受け取り、それに対して、オペレーターが適切な処理を行います。この一連の流れをCTAと呼びます。

PLGにおけるCTAは、以下の流れになります。

1.ユーザーのプロダクトの利用率が一定の数値に達する

2. システムが1のイベントを自動的に検知し、ユーザーに対し有償化を勧めるメッセージをプロダクト上で表示する

3.同時に、システムはその事実をセールス担当に通知する

4.通知を受け取ったセールス担当は、メッセージ表示後のユーザーの行動を確認する

5.状況に応じてユーザーに電話、メールなどでコンタクトしセールス活動を行う

PLGではこのようにCTAが不可欠であり、自社が提供するプロダクトのバックエンドには、CTAを実行するシステムが必要です。

Personalize

SaaSでは全てのユーザーに共通のUIが提供されていますが、それぞれのユーザーの状況に合わせて表示されるメッセージが変化するなど、パーソナライズ機能が搭載されています。

上記CTAの2で表示されるメッセージは、特定の条件を満たしたユーザーにのみ表示されます。このようにユーザーのプロダクト利用状況に応じたメッセージが個別化されることをナーチャリングと呼びます。特定のユーザーにのみ表示するためには、プロダクトがパーソナライズ機能を持っていることが必須で、PLGにおいて導入が不可欠な機能だといえます。

通常、SaaSではすべてのユーザーに共通のUIが提供されており、ユーザー別のカスタマイズは存在しません。しかし昨今では、SaaSにパーソナライズ機能が搭載され、各ユーザーの状況に応じて、表示されるメッセージが変化するなどの工夫が見られます。

PLG(Product Led Growth)のオペレーションモデル

PQL Model

PLGを論じる上で必ず理解しておくべき概念が、「PQL(Product Qualify Lead)」です。OpenViewによると、PQLは次のように定義されています。

“A PQL is any lead who’s experienced true value with your product through a free trial or a freemium model.(トライアルモデル、もしくはフリーミアムモデルによって、あなたのプロダクトに価値を感じたリード)” 

PLGでは、顧客が有償契約の前にサービスを無償利用可能であることが前提となっていますが、サインアップして無償利用した際にサービスに価値を感じた可能性が高いリードをPQLと呼びます。

サービスによりますが、一般的には以下を基準としてPQLとみなします。

● サインアップ後、利用率が一定水準に達したユーザー(リード)

● 現在のプランが定めている利用制限の上限の◯%に達したユーザー(リード)

● 一度でも有償化ボタンをクリックしたユーザー(リード)

また、次のような指標もスコアリングの参考として活用されることが多いです。

ユーザーと顧客のプロフィール

人口の統計情報や、企業規模、業種、売上高などの企業統計情報は、セールスが最も関連性の高い見込み顧客をターゲティングするのに役立ちます。

行動分析

ユーザーの機能の使用状況や使用頻度など、コンバージョンにつながる重要な行動を測定し、発見することを指します。例えば、オンボーディングプロセスを完了することができたユーザーや、ゴールデン機能を使用したユーザーの把握などが挙げられます。

カスタマーエンゲージメント

リードソース、アプリ内メッセージング、コンテンツやメールへの反応など、製品やマーケティングに対するユーザーのエンゲージメントを追跡することで、ユーザーのステージやジャーニーの途中経過を把握できます。

パッケージの上限到達

使用可能なアカウント数や使用量の上限を設定することで、アップセルの機会を生み出しますが、この上限への到達状況によって顧客の有料サービスへのニーズを読み取れます

ヘルススコア

サポートチケットや顧客からのフィードバックによって、全体的な品質を評価し向上させるのための新たな視点を得ることができます。

「Product-led growth – the pocket guide every product person should read」の画像を元に、Magic Moment 作成

活動内容

PLGはアップセル提案をプロダクトドリブンで行うと述べましたが、従来型のアップセル提案とPLGのアップセル提案では、活動内容が異なります。

従来型の営業活動

以下の図は、従来型の営業活動を表したものです。セールスチームは、マーケティングチームが獲得したリードに対してナーチャリングを行い、リードがSQL(Sales Quality Lead)となったものに対してセールスが営業・提案を行います。

「Mastering Product Experience In SaaS」の画像を元に、Magic Moment 作成

PLGの営業活動

上記に対して、PLGの営業活動では、セールスチームがユーザーがサインアップした後に活動します。その活動はユーザーが顧客となった後まで継続します。セールスチームは顧客ライフサイクルの後工程まで関わり続け、プロダクトの利用率とタイミングに応じたアップセル提案を仕掛けます。

「Mastering Product Experience In SaaS」の画像を元に、Magic Moment 作成

PLG(Product Led Growth)に必要なKPI

従来のSaaS KPIには、以下の10個があります。

  • MRR
  • ROI
  • Quick Ratio
  • CAC
  • CCR
  • LTV
  • Unit Economics
  • Magic Number
  • Sales Velocity
  • NRR

Magic Moment 作成

これらの指標に関する詳しい解説は、下記の資料に掲載しています。ご興味がございましたらぜひダウンロードくださいませ。

サブスクリプションビジネス経営者が見るべきKPI10選 | Accel by Magic Moment

従来のSaaSモデルとの以下の相違点

PLGを実行する際には、従来のSaaSモデルとの以下の相違点を考慮する必要があります。

成長ドライバーとしての製品

Atlassianは収益のわずか19%をセールス&マーケティングに費やしており(成長の遅い New Relicは55%を費やしています)、そのCACペイバックは最高レベルです。

それは、彼らの成長のが、効率的な自社製品自体によってもたらされているからです。実際、Atlassianは製品とエンジニアリングに他社よりも多くの予算を投じています(収益の47%に対し、New Relicは25%)。

ランド・アンド・エクスパンション・ダイナミクス

Twilioは、開発者優先の市場展開を行っており、新規顧客は初期費用なしでサインアップすることができます。これにより、1,000万以上の開発者アカウントと20万以上のアクティブカスタマーを獲得しています。

しかし、Twilioの収益は、成功している一握りの顧客に集中しています。年間1000万ドル以上の顧客は7社、年間100万ドル以上の顧客は142社です。

Twilioのような企業は、新規契約をポートフォリオとして扱う必要があります。多くの顧客は、控えめに使用しているローエンドに集まり、一部の顧客が急速に拡大していきます。

Limitless LTV:CAC

Snowflakeは、最新の決算発表で純売上高の維持率が168%だと報告しました。このような指数関数的な成長では、新規顧客からの1,000ドルが、理論的には5年後には年間13,000ドル以上になります。

彼らは、18〜24ヶ月の「健全な」CAC回収期間を維持すべきでしょうか?LTVが本質的に無限であるならば、LTV:CACの意味を再考する必要があります。

企業の開示事例

PLG企業のIRレポートでは、以下のようなKPIが開示されています。

Dropbox

DropboxのIRレポート(2021年第一四半期)では、ARRについてサマリー内にも記載があります。

“Total ARR ended at $2.112 billion, an increase of 13% from the same period last year. On a constant currency basis, Total ARR grew $60.5 million quarter-over-quarter, and year-over-year growth would have been 12%.”

Dropbox “Dropbox Announces Fiscal 2021 First Quarter Results
May 6, 2021″, https://dropbox.gcs-web.com/news-releases/news-release-details/dropbox-announces-fiscal-2021-first-quarter-results

PLG (Product Led Growth)を活用する際の新SaaS KPI

PLGを活用する際のKPIには、以下の指標が利用されます。

  • 投資収益率(Return on Incremental Invested Capital, ROIIC)
  • 資金効率性(New ARR / Cash Burned)
  • 自然成長率(NRG )
  • 顧客タイプ別コホート保持
  • Pipeline Creation Rate(PCR)
  • アクティベーション率
  • 製品認定リード(PQL)
  • 14日間および90日間のコンバージョン率
  • チャネル別のサインアップ
  • セルフサーブチャネルの販売パイプライン

例えばバックオフィスを効率化するSaaS型クラウドサービスを提供するFreee社では、IR資料でARRの指標を使って資金効率性を説明しています。

PLG (Product Led Growth)を活用する際の管理KPI

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投資収益率(Return on Incremental Invested Capital, ROIIC)

  • 概要・利用方法:営業、マーケティング、製品開発への成長投資間での適切なトレードオフを見極めるために活用されます。
  • 数式:投資収益率=(粗利益−販管費)/ (営業費用+マーケティング費用+製品開発費用)
  • ベンチマーク:100%以上の成長を遂げている生産性の高い企業の投資収益率の中央値は64%で、20%未満の成長を遂げている企業のの7.2倍でした。(2020 Expansion SaaS Benchmarks | OpenView

資金効率性(New ARR / Cash Burned)

  • 概要・利用方法:資金効率性を示す指標で、企業の規模、段階、および経済モデルに大きく依存します。
  • 数式:資金効率性=新規ARR/キャッシュアウトフロー(資金流出)

自然成長率(NRG)

  • 概要・利用方法:セルフサーブまたは無料サインアップと起因とした成長速度を表します。
  • 数式:NRG=年間成長率 × 自然サインアップ割合 × その期に開始されたARR
  • ベンチマーク:100%以上の成長を遂げている生産性の高い企業の投資収益率の中央値は64%で、20%未満の成長を遂げている企業のの7.2倍でした。(2020 Expansion SaaS Benchmarks | OpenView

顧客タイプ別コホート保持

  • 概要:同一開始時期のサインアップグループ間の推移を可視化するコホートベースのメトリックです。
  • イメージ

Magic Moment 作成

  • 利用方法:コホートベースのチャーン / アップセルを追跡し、市場開拓チャネル、ユーザー数、国ごとに行動を詳細に把握します。

PLG (Product Led Growth)を活用する際の運用KPI

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Pipeline Creation Rate(PCR)

  • 概要・利用方法:売上が継続的に伸長するかを判断する先行指標です。
  • 数式:PCR ={(今月創出した特定条件のパイプラインの総額 / 前月創出した特定条件のパイプラインの総額) – 1} × 100(%)

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アクティベーション率

  • 概要・利用方法:契約後1/2週後に、プロダクト価値を感じるアクションを実行するサインアップを行う割合を示します。20〜40%が一般的なベンチマークとされています。

製品認定リード(PQL)

  • 概要:プロダクトUsageからPQLのスコアを設定し、営業に渡します。MQLスコアリングと同様に、G2Mチームが製品動作とマーケティング資格(会社規模、役職、地域など)の両方に基づいて製品ユーザーを特定します。
  • 利用方法:たとえば、
    • 目標到達プロセスのリードが次の場合にコンバージョンにつながる可能性が5倍高いことがわかった
    • アプリケーションで30分以上費やした
    • 2人以上のユーザーを追加
    • 請求ページにアクセスしました
    • A機能を〇〇回利用している

という場合に、Usageの動きを営業がアラートとして受け取れるようにして、アプローチを実施します。

14日間および90日間のコンバージョン率

  • 概要・利用方法:14日間と90日間の両方のコンバージョン率を測定します。コホートの健全性の指標として、試行の成果を判断するために重要な指標です。

チャネル別のサインアップ

  • 概要・利用方法:チャネル別(自然検索 / SEO、クチコミ、製品の招待、紹介、マーケットプレイス)のサインアップ数を測定します。チャネル別の不均衡を把握し、適切な投資配分を決定するために重要な指標です。

セルフサーブチャネルの販売パイプライン

  • 概要・利用方法:多くの企業にとって、セルフサーブの収益はごく一部ですが、そこから生まれるパイプラインの影響は大きいです。PLGの取り組みを最大限に把握するために、セルフサーブによる直接収益と、セルフサーブで生成された販売パイプラインの両方に注意が必要です。

まとめ

  • Product Led Growth(PLG)は「プロダクトがプロダクトを売る状態(Product sells itself)」を目指す戦略を指す。
  • PLGの本質を理解するための4つの柱として、Product、Marketing、Pricing、Salesが挙げられる。
  • PLGの営業活動では、セールスチームがユーザーがサインアップした後に活動し、プロダクトの利用率とタイミングに応じたアップセル提案を仕掛ける。
  • PLGを活用する際のKPIには、従来のSaaSモデルとは異なる指標が利用される。