SaaS 営業とは?売上を上げるために営業が心がけるポイントを徹底解説

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要約SUMMARY
  • SaaS の営業ではそのビジネスモデルから、CX やブランドロイヤルティ、LTV を考慮した営業であるべき
  • SaaS市場は日本国内でも近年急速に広まり、年平均成長率(CAGR)10%以上の成長率で拡大し続ける見込み
  • CX 向上の観点から、SaaS 営業では The Model と呼ばれる組織体制が取られることが多く、SaaS ビジネス特有の戦略が必要になる
  • SaaS の営業では、プロダクトに還元していく力や これまでにない営業スタイルが求められる
  • 分析や予測の自動化機能を備えたセールスエンゲージメントプラットフォームが登場

近年、SaaS業界が急速に成長しており、スタートアップ企業から中小企業、大企業まで SaaS ビジネスを展開する企業が増加しています。

しかし、SaaS ビジネスにおける営業活動は、そのビジネスの性質上、従来の売り切って終わりの営業活動とは異なる部分があり、SaaS 営業の組織作りにおいても注意が必要です。

そこで、本記事では、SaaS ビジネスの営業組織を形成し、収益拡大を目指す上で知っておきたい SaaS の営業に必要な役割や心構え、組織で浸透させるべきスキルを紹介します。

また、SaaS 営業に欠かせなくなっている最先端の営業支援ツールについて解説します。

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SaaS のビジネスとは?

SaaS とは「Software as a Service」の略で、ユーザーがインターネット経由でクラウド上のソフトウェアへの接続・使用を可能にするサービスのことです。

日本語では「サース」または「サーズ」と呼ばれることが多く、「所有から利用へ」というメガトレンドのもと、近年では多くの企業が SaaS ビジネスを展開しています。

従来のソフトウェアはユーザーがパッケージを購入し、自社内で管理・運用するスタイルでしたが、SaaS のサービスではプロバイダーが基盤となるインフラやミドルウェア、アプリ、顧客のデータまでを一貫して一元管理しており、セキュリティやソフトウェアへのアクセスを担保します。

また、SaaS のビジネスモデルは、利用プランや期間に応じてユーザーが一定期間の契約をする仕組みであり、例えば一般消費者向けの Netflix のような動画見放題サービスや YouTube Music のような音楽配信サービスも SaaS サービスの一種です。

SaaS ビジネスの特徴と営業のポイント

従量課金や月額、年額で収益が発生する SaaS のビジネスにおいては、従来のビジネスとはその収益構造が大きく異なってきます。

顧客との継続的な関係を重視する

SaaS 業界の商品・サービスでは多くの企業がサブスクリプション型(継続課金型)のビジネスモデルを採用していることから、顧客との継続的な関係が利益を上げる要となってきます。

継続的な関係を築いていくうえで、SaaS の営業は成約後も継続的にコミュニケーションをとり、利用し続けてもらう必要があります。

この SaaS ビジネスの成功の鍵は、顧客が自社に特別な価値を感じている状態であることです。これには、顧客のプロダクトやサービスへの満足度だけでなく、サービスを受ける過程で顧客が得られる体験も大切になってきます。一般的に普及する「とにかく売る」の意識ではなく、SaaS の営業はむしろ後者を意識するべきです。

製品をただ売るのではなく、カスタマーエクスペリエンス(CX)を高めるための、成約後のオンボーディングなどのサポートや、下の図のように受注に至る前でのプロセスで顧客も知らないインサイトを提供することなどが挙げられます。

図:顧客起点の営業プロセス(Magic Moment作成)

ブランド価値へのロイヤルティを大切にする

顧客が自社のブランドや製品に対して愛着を持っていたり、他社には見いだせない特別な価値を抱いているロイヤルティが高い状態が SaaS ビジネスの理想になります。

極論この状態であれば価格を理由に他社に乗り換える顧客がいなくなるとも言えます。成功のモデルとして考えられるのが Apple社です。

Apple社 は製品の機能に止まらないそのデザインや使いやすさなどをブランド価値と紐付け、消費者に意識させることで唯一無二のブランドを築いています。機能や価格といった基準で価値を測られない枠組みこそが SaaS ビジネスの強みになります。

LTV を定量的な評価指標として活用する

SaaS では収益が累積的に積み上がっていくモデルです。そのため、投資コストを回収し、利益を上げる観点からも SaaS の定量的な指標として重要視されるのが、 LTV(顧客生涯価値) です。

SaaS の営業が見るべき指標も、単なる売上ではなく LTV となります。LTV は顧客が自社との接点を終えるまでに自社に支払う総額を示しているため、下の図のように SaaS モデルで利益を生み出すためには、顧客獲得にかけたコストを LTV が上回っている必要があります。

図:サブスクリプションの投資回収は長期化する(Magic Moment作成)

このLTV/CAC比率 で将来の利益を推定する指標はユニットエコノミクスと呼ばれます。営業が意識するべき指標です。

ユニットエコノミクスの概要やベンチマークとなる比率、LTV を上げるための具体的なアプローチ手法を以下の記事で解説しています。

あわせて読みたい:LTV/CAC比 ユニットエコノミクスとは?LTV 向上の戦略を解説

SaaS業界の現状と今後

世界と日本の SaaS業界の現状

SaaS 業界は近年、大きな成長を遂げています。「令和4年度 総務省 情報通信白書」によると、世界の SaaS 市場規模は2017年の618億米ドルから2024年には2,337億米ドルとなると推計されていて、2021時点での日本の SaaS を含むパブリッククラウドサービス市場の市場規模は1兆5,879億円(前年比28.5%増)となっています。 1)

特に2020年のコロナ禍以降の成長率が顕著であり、DX化の流れも後押ししていると見られます。ただ、一部の企業による寡占化が進んでいることも指摘されています。

具体的には、世界のパブリッククラウドサービス市場は、2021年上期は上位5社( Microsoft、Amazon、IBM、Salesforce、Google )が全体の48.1%を占めています。顧客の支持を受けたサービスが継続的に使われることで、収益が雪だるま式に増えていくビジネスモデルの特徴といえるでしょう。

また「総務省 令和3年通信利用動向調査報告書」によると、クラウドサービスの利用状況についての調査では、対象企業のうち「全社的に利用している」「一部の事業所又は部門で利用している」と回答した企業が2017年は56.3%だったところ、2021年にはその数値は70.2%まで上昇しています。 2)

SaaS業界の展望

SaaS 市場は今後も拡大していくことが見込まれています。

富士キメラ総研」によると日本の SaaS 市場規模は、2021年時点で9,269億円であったところ、2026年には1兆6,681億円、約1.8倍になると推計されています。国内の年平均成長率(CAGR)は12.5%と見積もられています。 3)

世界の SaaS 市場規模も引き続き拡大が予想されています。また、Business Research Company などの調査によると、世界の SaaS市場規模は2026年には3,744億8000米ドルに拡大すると見込まれています。 4)

SaaS 営業の仕事内容

SaaS の営業組織は、多くの場合「 The Model 」と呼ばれる組織体制をとっています。

図:The Modelによる分業制の登場(Magic Moment作成)

従来は営業担当者が一人で顧客開拓から契約・受注後のフォローアップまで営業プロセスを一気通貫で行う企業が多くありましたが、その分1人あたりの業務量が過多になり、SaaS に欠かせない顧客体験を醸成するというビジネスモデルとは相容れない点となっていました。

実際に、セールスフォース・ドットコムでは、The Model を「お客様の成功と共に、売上を拡大する仕組み」と位置付けています。つまり、The Model 型の営業組織では、それぞれの部門が顧客体験を向上させる目的のもと、顧客の購買プロセスを起点に一貫した営業活動を実施していきます。

The Model では、営業活動を「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4部門に分けて考えます。

それぞれの部門の仕事内容について見ていきましょう。

マーケティング

SaaS におけるマーケティングは、市場における自社のブランド認知を高めて長期的視野で LTV を上げていく役割をもちます。既存顧客からの売上アップに貢献したり、狙ったターゲットのニーズを満たす製品の開発、リファラルによる新規顧客の紹介などにも貢献します。

マーケティングの戦略でまず考えるべきことは、見込み顧客により長く、より高頻度に高単価の商材を購入してもらうことによって LTV を上げることです。

つまり、SaaS のマーケティングが果たすべき役割は主に以下の3つになります。

  • 推定LTV が高い見込み顧客を定める
  • 推定LTV が高い見込み顧客の獲得/育成
  • 顧客のデータドリブンに活用/ターゲットの再編

いわゆるターゲティングやセグメンテーションの確度が大切ですが、考え方としてその顧客が解決すべきニーズを解決した時に、自社のブランドや製品への顧客ロイヤルティが高まるといえるかと自問すると良いです。

こちら の記事では SaaS のマーケティングが持つべき考え方や、LTV を向上する戦略から具体的な実践手法を紹介しています。

あわせて読みたい:マーケティングの LTV とは?LTV 最大化のマーケティング戦略を紹介 

インサイドセールス

インサイドセールスとは、電話・メール・チャット、もしくは web 会議ツール などを用いて「非対面の営業」を行う営業のことです。

マーケティングが獲得したリードに対してナーチャリングを行い、より成約の見込みの高い顧客をフィールドセールスに引き渡す役割を果たします。組織によっては、インサイドセールス部門で見込み顧客リストを作成し、PUSH 型で接触する場合もあります。

マーケティングとセールスをつなぐ役割を持つとも言えるインサイドセールスは、顧客の体験を醸成し、温度感を確かめていく上で非常に重要です。

大切なことは成約率の高い案件をしっかりと定義しておくことです。ポイントは主語を常に見込み顧客にすることです。例えば、「計◯回以上の資料請求をしている」「メルマガの開封率が◯◯%以上である」などです。客観的に判断できる形で案件の状態を定義しておくことで、営業は適切なタイミングで適切なアプローチができます。

既存顧客がこのナーチャリングの段階にいた時に得ていた顧客体験から、見込み顧客に提供する顧客体験の仮説を立てるなどの手段も取ることができます。

インサイドセールスの立ち上げから効率的に運用していくためのステップを解説した「インサイドセールス・スタートブック」を無料で提供しています。

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フィールドセールス

フィールドセールス部門の役割はまさしく、顧客と商談を行い、受注を獲得することです。

ただ、SaaS の営業が意識すべきポイントでも紹介した通り、SaaS ビジネスでは「売れば終わり」ではありません。むしろ、SaaS ビジネスでの営業の評価は、獲得した顧客がどれほど自社の LTV に貢献するかです。

つまり、営業には同業他社と同様な製品のメリットを伝えるのみではなく、顧客のビジネスの躍進を真剣に考え抜くことが大切です。顧客が知らない新たな気づきを提供し、顧客のやる気を喚起していくことを心がけましょう。

こちら の記事で、トップセールスが持つ特徴や心がけるべきことを紹介しています。

あわせて読みたい:【営業】本当のトップセールスとは?

カスタマーサクセス

カスタマーサクセスは SaaS ビジネスの要とも呼べる存在です。目的は自社の製品やブランドへの顧客ロイヤルティの向上を通じて、製品のアップグレードや関連商品の購入を促すこと、そして長く自社との取引を続けてもらうことです。

ロイヤルティ向上の要は、顧客満足度とカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上です。2つのポイントを意識するようにしましょう。

  • 製品の利用を促進し、顧客にとって欠かせない存在とする
  • 能動的に顧客の成功体験の醸成する
図:カスタマーサクセスの目的は顧客の成功(Magic Moment作成)

特に、製品の利用データや顧客の体験と MRR解約率などのロイヤルティを計る目安となる指標との相関性を見ていくことが大切です。

例えば、「プロダクトのログイン率が◯◯%以上のユーザーは平均追加購入単価が◯◯%高い」「ニュースレターの開封率が◯◯%以上のユーザーは解約率が平均◯◯%低い」などです。

こうした満足度や自社への愛着度を計る指標を立てておき、徹底して顧客の成功を支援することで、良かった施策・悪かった施策が分かりやすくなり、振り返りもしやすくなります。

SaaS 営業に必要なスキル

SaaS 営業が持つべきスキルについて、従来の営業とは違ってどのようなスキルが重要になるか解説します。

プロダクトに反映する力

SaaS 営業には、顧客の意見など営業しか聞けない生の声を聞いて、開発チームと連携し、プロダクトに反映する力が求められます。

SaaS では顧客の期待値を超える製品を提供し顧客満足度を高める必要があるからです。満足度の高い顧客は、リピート顧客になったり、より高額な商品・サービスを購入したり、口コミでサービスを広める役割を担ってくれることで企業にとってもプラスの存在になります。

変化の早い SaaS 業界では、定量的なログや利用レポートを見ているだけでは、顧客が離れてからデータで気づくということが起こりえます。顧客とのコミュニケーションを通して得られた意見や使い方に関する疑問点、UI、習熟具合などの定性的な情報をプロダクトチームにフィードバックし、利便性を追求する姿勢が大切です。

選択と集中する力

SaaS 営業は、顧客ニーズと提供価値が合致する見込み LTV が高い案件の受注が大切です。仮に顧客のニーズを満たさない案件を受注しても、ロイヤリティが低い案件はすぐに解約されてしまい、収支は赤字になるからです。

つまり、「獲得すべき理想の顧客像」を明瞭にしておく必要があります。

理想の顧客を知るには、NPS (= Net Promoter Score、顧客推奨度) などの顧客ロイヤルティを測る指標から理想の顧客の特徴を割り出します。また、LTV には顧客ロイヤルティに欠かせない、心理・行動ロイヤルティ(企業やサービスに対する愛着、信頼、思いやり)を変数に含むため、既存顧客のうち LTV が高い顧客の特徴を見いだすことも有効です。

いずれにしても、SaaS 営業はただ受注すれば良いのではなく、投資対効果の観点からも自社に最適な顧客に集中すべきことを忘れてはいけません。

課題解決力

ここでの課題解決力は、顧客のニーズを聞き取り、それを満たすサービスを提案するということではありません。

SaaS で重要な課題解決力とは、顧客が気づいていない真の課題(インサイト)を提示し、変化の重要性を認識してもらい、自社サービスの利用メリットを感じてもらうことです。

というのも、すでに顧客が気づいている課題に対しては競合他社も類似のヒアリングを行い、類似のソリューションを提案します。その状況では顧客の心理として現状維持バイアスがかかる上に、購入時の比較軸は「価格」のみです。

仮に価格競争に勝利して受注できたとしても、価格メリットがなくなれば解約され、他社に乗り換えられてしまいます。

つまり、SaaS 営業では顧客にとっての価値を「価格」ではなく、ビジネスの成長に欠かせない顧客が解決するべきことに焦点当てるように意識しましょう。長期的に利益を上げられる営業であるためには、どこに価値を当てるのかを意識したメッセージが非常に重要になります。

SaaS 営業におすすめのツール

SaaS 営業組織の生産性を向上させるには、営業担当者をサポートするセールスエンゲージメントプラットフォームの活用が有効です。

日本ではまだ知名度が低いツールですが、アメリカを中心に広まっており、GAFAM といった企業でも活用が進んでいます。

FACT.MR の調査によると、セールスエンゲージメントソフトウェアの市場規模は、21年の50億ドルから22年には74億に増加すると見込まれていて、22年からの10年間に市場規模はさらに4倍になると見込まれています。日本においても CAGR(年平均成長率) は13.3%と見込まれています。 5)

セールスエンゲージメントプラットフォームとは、営業担当者が見込み顧客や既存顧客とのコミュニケーションをより効果的に実行できるようにするテクノロジーです。データをもとにそれぞれの顧客への最適なアプローチを可視化し、結果の分析と改善を自動で担ってくれます。例えば、セールスエンゲージメントプラットフォームを導入するメリットには以下のものがあります。

  • SFA/CRM のデータ分析や売上/トレンドの予測の自動化
  • 営業が次に取るべき最善のアクションを提示してれる

当社が提供する Magic Moment Playbook もセールスエンゲージメントプラットフォームです。

Magic Moment Playbook では、営業担当者に「やるべき活動」を提案することで商談化率を高めたり、効果的なメールや電話のタイミングを自動でお知らせすることで顧客と良い関係を築くコミュニケーションを実現できます。

日々の営業活動の活動量を増やし、成約率を高め、顧客エンゲージメントが高まるコミュニケーションを実現することで、過去の導入実績では LTV が6〜12倍になるなど、事業成果に貢献しています。

図:Magic Moment Playbook(Magic Moment作成)

本記事で解説した通り、SaaS ビジネスでは従来とは異なる営業スタイルが求められています。

その他、Magic Moment Playbook の機能についての詳しい情報は こちらの記事「営業改革を実行するための主要機能」 をご覧ください。

Magic Moment Playbook サービスサイト:https://lp.magicmoment.jp/magic-moment-playbook
導入事例:https://www.magicmoment.jp/academy/category/case/

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《引用文献》

1)総務省 令和4年版 情報通信白書. https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/pdf/n3600000.pdf, p.5-6, (参照 2023-01-26)

2)総務省 情報流通行政局 令和3年通信利用動向調査報告書(企業編). https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR202100_002.pdf, p.15-18, (参照 2023-01-26)

3)株式会社富士キメラ総研 ソフトウェアビジネス新市場 2022年版. 2022-07, https://www.fcr.co.jp/report/221q09.htm, (参照 2023-01-26)

4)Business Research Company, Software as a service (SaaS) Global Market Report 2023. 2022-02, https://www.researchandmarkets.com/reports/5735157/software-service-saas-global-market-report?gclid=CjwKCAiA2rOeBhAsEiwA2Pl7Qy736zAv_wmBTZcoWDcho_l5kyU1vCdfn1ho8_3XNiSmBIDrwgJecRoC4nYQAvD_BwE, (参照 2023-01-26)

5)FACT.MR, Sales Engagement Software Market. https://www.factmr.com/report/sales-engagement-software-market, (参照 2023-01-26)