仮説起点の組織営業論【イベントレポート】

執筆者

Magic Moment では、2023年9月13日に、「仮説起点の組織営業論」を開催しました。

仮説起点の営業論』の著者である Datable 鈴木眞理氏をお招きし、Magic Moment 代表取締役 CEO 村尾祐弥が対談を行いました。

当イベントは大手企業の経営層を含む総勢100名の方々にご参加いただきました。

鈴木氏はかつて freee で組織責任者であった村尾の組織においてセールスとしてご活躍されていた経緯があります。テクノロジーが急速に進化する時代における営業の介在価値に関する考え方に共感し、本イベントの開催に至りました。

村尾の Google・freee での経験や鈴木氏のキーエンス・freee でのご経験をもとに、仮説思考の営業を組織に浸透させるためのポイントなどについて議論が交わされました。本稿ではイベントの一部を抜粋し、ご紹介いたします。

なぜ「仮説」が営業において不可欠なのか

営業において仮説が重要視される背景

鈴木氏:「元々仮説は重要だったと思うんですけど、ここ数年で私が営業を始めた約20年前と比べてもさらに重要になっているかなと考えています。理由としては3つあると思っています。」

  1. 課題の複雑化
  2. テクノロジーの進化
  3. コモディティ化

鈴木氏:「一つが課題の複雑化です。例えば経済が成長していて、消費が伸びていると、需要の方が多いので、生産する量を増やせば売れるといった形で課題がシンプルでした。

ただ、市場も成熟して来ると、新しいビジネスもどんどん立ち上がって競合が出てきます。お客様のビジネスにおいて競合が出てくると、生産能力をあげるといった内部の話だけではなく、競合に対してどのような差別化ポイントを作って訴求するかなど、外部環境の影響が非常に多くなってくるので、抱える課題も複雑になってきています。さらには自分たちのビジネスにおいての競合もいるので解決策も複雑になります。

もう一つが、テクノロジーの進化です。以前はインターネットも普及しておらず、お客様は営業に聞かないと得られない情報が多くありましたが、今は誰でもインターネットで調べることで多くの情報を得られます。

既に発信している情報を得るだけならネットやカタログでできるので、営業としては顧客ごとに合わせた話をする必要があり、そこで仮説思考を持つことが重要になっていると思います。

最後に、コモディティ化です。いろんな競合企業やプロダクトが登場してくると、どのプロダクトもある程度課題は解決できると思うんですね。個別の機能で◯×をつけてもこの機能は自社のプロダクトが優れている、別の機能では競合のプロダクトが優れているという状況になってしまい、お客様も何を選べばいいのかわからないことがよくあります。

そのため、ただ機能を説明できる営業ではなく、お客様がどのような課題を持っており、なぜその課題が生まれ重要なのか仮説をたてたうえで、最適な解決策が自社のプロダクトであるという根拠として機能の話ができる営業が求められていると思っています。」

営業の存在意義とは?

営業が介在する価値

鈴木氏:「一番最初にいたキーエンスという会社では、各社員のランクごとに1時間あたりに稼ぐ責任を持つ金額が決まっていたので、自分が使っている時間に対して、何か生み出せたのか?と強く意識するようになりました。

また、キーエンスは実際に原価に対してどのような価値を提供できているというところも強く意識する会社だったので営業が提供してる価値って何なのか、よく考えるようになりました。」

一方で、「介在価値」と考えると価値の主語が社内になってしまうと村尾は提起しました。

村尾:「よく freee でも言っていたのは価値は提案しかできないんだということです。その提案価値を上げていくことしか僕らはコントロールできなくて、お客さんがそれをどう受け取るかは決められません。

その価値に対してお金を払ってくれるので、いかにその無形価値もしくは付加価値みたいなものをつけられるかみたいなことに私は拘ってきました。製造業での営業とは違う部分も多いと思いますが。

営業が所属するその会社の視点から営業の介在価値があるかというエコノミクスという側面とお客様にとっての価値は別で、提案した価値がお客様の中で実現されていくことが大事なことなのかなと考えています。」

村尾の提起に対し、鈴木氏も、「営業が自社の売上を上げることばかりを考えるのは違うと思っています」と答え、次のような例を挙げました。

鈴木氏:「仮にプロダクトとして、社内の他の人件費も含めて10万円で作れるものを、利益を出すために12万円で売る時、この2万円をお客様にとってただのコストにしてしまうなら営業の意味がないと思っています。だからそこに対してお客様にどのような価値を提供できているかなというのはすごい大事ですね。」

営業活動における AI 活用や自動化が進む中、人間ができることとは

村尾:「例えばアメリカではリストを買って、そのリストに対してものすごく自動化されたアプローチをして徹底的に効率化する流れができていますよね。だけど、その中でほぼ仮説がない場合、ただの作業になるじゃないですか。そうすると、人間がそこにはいらないんじゃないかとなってきます。その作業は何も生んでいなくて、介在価値がないからです。」

自動化できる作業は AI に代替される中、人間にしかできない、代替されないものは何なのでしょうか。

村尾:「代替できないものって何なのかと考えると、エンタープライズセールスのアカウントプランで狙った人に会い、そのアカウントプランに出てくる方々に真っ先に声をかけられるかどうかみたいなことかなとイメージしています。声をかけるのも人で声をかけられるのも人なので、そういったことが代替されるかみたいなことはよく社内でも議論しますね。

SMB に対する営業も同じだと思うんです。使い方が分からない時にチャットに聞けば分かった、という形でプロダクトが伸びていくものは、そもそもセールスは必要ない。そういう状況の中で必要なものって何だっけみたいなことはすごくよく考えています。」

ーITmedia における「営業マネージャー不要論」に関する村尾の連載はこちらからご覧いただけます。
「米国で「営業マネジャー不要論」が話題 AIが代替できない「営業の仕事」はあるのか」

鈴木氏は、AI と人間の違いについて、人間は顧客と向き合いながら未来のことについて新たな可能性を提案することができる点を挙げました。

鈴木氏:「AI は今ある情報に対して大量のデータを分析して答えを出すことは得意なんですが、今の延長にない変化を起こすことを考えるのはあまり得意ではないと考えています。

例えば、成功率は高いけれども効果は平均的な取り組みAと、成功率は低いが効果が高いBという取り組みがあった際に、AI であれば今までの延長としての成功率と効果をかけた期待値からAに取り組むべきと言うかもしれません。

しかし、営業が介在してBの施策に取り組む人たちの熱意を変えることができれば、Bの成功率が上がりBに取り組む方がいいかもしれません。お客様のマインドチェンジをしながら効果の高い取り組みを提案していくことは営業だからできることの一つです。

競合も AI を使うとみんな同じ選択をするかもしれませんが、そこに営業が入ることで、新たな可能性を提案できるところに介在価値があると思います。」

仮説をぶつけ、顧客が今取り組むべき課題に気づいてもらう営業ができるか?

鈴木氏:「お客様が何を求めているかという観点では、昔は製品とかサービスに関する情報でした。昔はそこの情報の非対称性を活かして営業をしていましたが、今は逆に情報が多すぎるので、いろんな解決策があってもどれが自分たちに活きるのかわからない場合も増えています。

自分達にはどんな解決策が必要なのか、そもそも今本質的に取り組むべき課題は何なのかといったところは、営業が大きく介在価値出せると思っています。」

村尾:「そうですよね、加えて、お客様にヒーローになっていただくことですよね。外から見て、客観的に取り組むべき課題をポイントすることって実はそんなに難しいことではないと思います。だからこそ、会話の中で仮説を当てていき、その仮説によってディスカッションが生まれて、つまりこういうことなんだなとお客さんが気付いていくようなストーリーが大事だと考えています。」

鈴木氏:「私も、完璧な仮説を作ろうとせず、早めにお客様にぶつけてディスカッションしながら作っていくべきだと思います。答えを説明するのではなくディスカッションしながらお客様が自分で気付くと、印象に残って、課題解決に取り組もうというモチベーションも高くなりますし、成功した時の嬉しさも生まれますよね。」

「仮説思考」を営業組織に浸透させる方法

営業組織に本物の仮説を与えてくれるデータ

村尾:「仮説思考を組織に展開するには、大きく3つのことが重要だと思っています。

  1. 個々のスキルの集積
  2. 組織課題解決
  3. 機会の特定

特に3つ目を間違うと組織のリソースが無駄になると村尾は言います。

村尾:「私は freee では120人の営業チームを預かっていて、いかにその営業効率を上げながら、さらに価値提案をするかみたいなことを考えていましたが、この機会の特定を間違うと120人全てリソースを無駄にするんです。だからロイヤルカスタマーや解約している顧客をデータから分析して、狙うべき顧客像を定義してそのセグメントに一気に攻めるみたいなことをやっていました。」

しかし、こうした分析はそもそも顧客の行動や顧客との関係性についてのデータが集まっている基盤がないと成り立たないと村尾は述べました。

村尾:「顧客とのエンゲージメント、つまりどう使っていただいているかとか、どういう合意があるかみたいなデータが営業組織に本物の仮説を与えてくれるならば、やっぱりフレームワークに沿ってデータを保有する必要があるんだと私は思っています。」

データはフレームワークに沿って記録・活用するよう設計する

村尾:「弊社では、データの記録や活用について TRUE INDEX というフレームワークを作っていて、提供するサービスのプロダクトも全てこのデータ戦略フレームワークを中心として作っています。(下図参照)

記録において重要なのはまず、リアルタイムで記録されることや、一度データを打ったら全てに展開できることです。例えば見積もりのデータを売ったら、その見積のデータはずっと活用されるべきです。SFA にも Excel にも基幹システムにもいろんなところで打っていると無駄で、ミスが起きるのでなくしていく。

あとは振り返れるかどうかも重要です。今起きていることってどういう連なりで起きたのかといったことをちゃんと振り返れるようにするみたいな話ですね。データは測定可能・検証可能な形で構造的に記録されるような設計もポイントとして考えています。」

村尾:「結局、仮説思考が営業組織に浸透するには、どういうオペレーションで営業組織が回ってるかってことに、どういうテクノロジーに根ざしてるか、さらにそれを使って動く人がいて、そこからどういうことが言えるかっていう洞察が揃っている必要があると思います。

だから、データをフレームワークに沿って記録・活用して、すべての点で仮説を生んで成果につなげ続けるみたいな組織が仮説起点の組織営業論の中心なのかなと思っています。」

営業マンの勝ちパターンを型化して、組織的に再現性を追求するためのコツ

​​最後に、ご参加いただいた方々から頂いた質問に対する回答を行い、本トークセッションは締められました。

鈴木氏:「私が実際にマネジメントとして重視していたのは、やはり定量的な分析とその要因です。例えばここのコンバージョンレートに課題があったっていう時に、そこの要因を掘り下げて考えていきます。

型って、要するにうまくいったものから共通する部分を抜き出して型化すると思いますが、いろんな切り口があるので、そこを要因分析して考えて抽象化して持っておくことが大事だと思っています。

このプロセスを続けていると型を作った後も、その型が通用するのか、逆に成果が出なかった時何が間違っているのか、それはなぜなのか、と要因を考え続けることで、次の型を生むことや改善に繋げていけます。」

村尾:「型って何でできているんだろうって思うんですね。型ってやっぱ何かちゃんとしたファクトと人間がやってる要素でできてるじゃないですか。例えば LTV が高い案件を生み出せていた時に、その間に何を聞いて何を合意してるのかみたいなデーターを全部統合して全部の数字を見て初めて型が作れるスタートラインに立つと思います。」

村尾:「次は、並行して2つのことが必要だと思っています。まずはそのツールにルールを実装します。でもそれだけだと人は動かないので、勝ちパターンの説明会とか、勉強会をすぐホットにやることも大事になります。

結局、型は、作ることが目的ではなくそれ通りやっていくとお客様に価値が提案できるよっていうことが組織の願いとしてあって、その願ったことを全員がやれるかどうかですよね。」

登壇者情報

鈴木 眞理 株式会社Datable VP of Sales

1981年生まれ。早稲田大学教育学部卒。2005年キーエンス入社。工場、設備メーカー向けに制御機器の営業を行う。11年SAPジャパン入社。インサイドセールスを経て、化学・石油業界担当のエンタープライズ営業に従事。15年オープンテキストに入社し、SAP経由のOEM販売を担当。
16年freee入社。セールス、カスタマーサクセスのマネージャー、セールスイネーブルメントを担当。マネジメントするチームから全社売上1位メンバーを複数輩出。
22年より現職。マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなどGo To Marketに関わる領域全体の責任者を務める。

村尾 祐弥 株式会社Magic Moment 代表取締役 CEO

中央大学法学部卒。Google Japan、freeeで営業部門の責任者として事業成長を牽引。2017年 Magic Moment を設立、翌年9月より経営を本格化。累計資金調達額 ,22億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。

2021年にローンチされた営業 AI 行動システム「Magic Moment Playbook」は、SMB の解約時期を乗り越え、世界でも比類ない CRM 同期連携機能で、百万件に及ぶ顧客データを即座に売上向上に活用する能力を実証(データ→営業活動への変換)。これにより、エンタープライズ企業を中心とするお客様の生産性と LTV の飛躍的な向上に挑戦している。(営業組織出力の最大化)