なぜ SaaS では Unit Economics が重要なのか?


SaaS 事業は、サブスクリプションによる契約が主体となります。サブスクリプションビジネスでは、1人の顧客の長期的なサービス利用が最も重要です。 SaaS 企業にとって、1人の顧客から得られる収益と1人の顧客を獲得するために必要なコストを算出することが求められます。 1人の顧客の LTV や CAC から算出される  Unit Economics(ユニットエコノミクス) は、理解しておくべき指標の1つとなるでしょう。Unit Economics は、事業としての投資が現時点でどれだけ効率的に行われているかを測ることができるからです。 この記事では、なぜ、Unit Economics はSaaS 事業にとって重要なのかについて、Unit Economics のベンチマークを交えて解説します。サブスクリプションビジネスの顧客獲得について、スキルアップを図る企業の企画責任者にとって、成功のための型となることでしょう。

Unit Economics(ユニットエコノミクス) とは?

Unit Economics (ユニットエコノミクス)とは、顧客をユニット単位で測定する事業の評価方法です。直訳すると、ユニット単位で経済(エコノミクス)を評価する方法という意味になります。 Unit Economics は、顧客1人をモデルとして、事業の経営面を評価するため、1人ひとりのカスタマーエクスペリエンスを重要視する評価方法です。ユニットの単位は、顧客であったり、製品であったり、販売ツールであったり自由に設定可能になります。 Unit Economics の仕組みは、 1人の顧客から得られる収益と、1人の顧客獲得にかかる費用から算出された数値の評価です。 ビジネスにおいて Unit Economics の目的は、「現時点でどれだけ効率的に顧客獲得ができているか」を示す指標になるでしょう。 

Unit Economics(ユニットエコノミクス) の算出方法

Unit Economics の算出方法には、算出式に使う数値と導き方があります。 Unit Economics には、 LTV(顧客生涯価値) と CAC(顧客獲得コスト) を理解する必要があるでしょう。

LTV(顧客生涯価値)

LTV(ライフ・タイム・バリュー)とは、自社のビジネスにおいて「顧客が生涯にわたりどれだけの利益を生みだしてくれるか」の予測値の指標です。サブスクリプション事業においては、長期的な顧客との関係性が必要なため、大切な考え方になります。 LTV の算出方法は、次の通りです。

LTV(顧客生涯価値) = 顧客平均単価÷顧客解約率

具体例をあげると、顧客の月額支払い料金が平均8,000円で、チャーンレートが1カ月換算で40 %の場合、計算式は次のようになります。 8,000円(ARPU)÷0.4(Churn Rate)=20,000円(LTV)LTV は、顧客の解約率に左右される点も特徴です。 LTV により算出される数値は、あくまでも予測であることに注意しましょう。

CAC(顧客獲得コスト)

CAC(カスタマー・アクイシション・コスト)とは、新規の顧客を有料顧客として獲得するまでにかかったコストの数値です。顧客獲得に向けて、 CAC を「どの程度投入することができるのか」の判断指標となります。 CAC の計算式は、次の通りです。

 CAC(顧客獲得コスト)=顧客獲得にかかった総費用÷獲得顧客数

たとえば、顧客獲得費用の総合計が40万円として、獲得した顧客数が80ユニットとします。この場合の CAC は、400,000÷80=5,000円(CAC)と算出されるのです。 

Unit Economics の計算式

Unit Economics は、次の計算式になります。

LTV (顧客生涯価値)÷ CAC (顧客獲得リスト)=  Unit Economics

例にあげた数値を当てはめてみると、次の通りです。LTV  20,000円/ CAC 5,000円 =  Unit Economics「 4 」Unit Economics の数値は、4になります。

なぜ SaaS 事業にとって重要なのか?

それでは、なぜ Unit Economics が SaaS 事業にとって重要になるのでしょうか?SaaS事業にとって、Unit Economics が重要となる理由は、損益分岐点に到達するまでに時間がかかるサブスクビジネスに対して、投資/コストに対する収益性を把握できるからです。  SaaS 事業では、顧客がサービスを簡単に解約できる点が特徴となります。そのため、LTV の算出に必要な churn rate が不確実になるでしょう。SaaS 事業では、顧客の解約率の変動により、 LTV の見積もりが難しくなります。 Unit Economics の評価は、変動しやすい点に注意しましょう。

適切なベンチマークとは?

Unit Economics の評価手法には、 LTV の変動に注意が必要なため、あくまでも予測数値でしかありません。 SaaS 事業における適切なベンチマークとしては、健全な Unit Economics について、  LTV が CAC の「3 倍以上」とされています。LTV/CAC > 3、つまり LTV が CAC の3倍以上になっている状態で、Payback Period が 6 〜 12ヶ月以内であることが事業の健全性が保たれている状態です。先ほどの例にあげた Unit Economics の場合、3以上である4 であることから、あれば、ビジネスの成長と拡張が見込める状態と判断されます。今回の例の場合は、事業の健全性が高い結果となるのです。

payback period とは

payback period とは、ビジネスにおける投資期間の評価方法を意味します。「事業が、何年で投資金額を回収できるのか?」を評価して、設定した回収期間と比較して今後の投資判断とする指標です。 サブスクリプションビジネスにおける payback period は、 CAC (顧客獲得コスト)を事業の収益で回収する期間を評価します。 payback period の算出式は、次の通りです。

payback period = CAC(顧客獲得コスト)÷ MRR(月次売上)

たとえば、 CAC が5,000円で月次売上が400,000円の場合、 payback period は0.0125となります。payback period の詳しい計算式は次の通りです。

 payback period は、 CAC (顧客獲得コスト)を「月次経常総利益×粗利益率」で割った数値です。 MRR に粗利益率を掛け合わせることにより、より詳しい数値が見えてくるでしょう。CAC が数値化されることにより、payback period の計算が可能になります。 payback period は、セールス・マーケティングによる顧客獲得コストを回収する期間の評価指標です。 payback period の特徴として、短いほど健全であることになります。 さらに、 payback period は、12カ月を超えることにより収益性が下がるのです。サブスクリプションビジネスにおいて、回収期間が長くなることにより、チャーンも多くなる可能性も高まります。そのため、顧客獲得コストの負担が大きくなると、赤字になる恐れがあるのです。

payback period は、初期段階において12ヵ月以内の基準を超えられないこともあります。その点をふまえてトラックしていくことが大事です。

Unit Economics(ユニットエコノミクス) を健全に保つためには?

payback period は、SaaS 事業の顧客獲得コストの回収期間を評価します。さらに、顧客1人当たりの収益性を評価する指標 Unit Economics を健全に保つためにも両方を意識した考え方が必要になるでしょう。 payback period により回収期間を短くして、 Unit Economics を3以上に保つことです。

具体的には、 CAC (顧客獲得コスト)を下げて、 LTV (顧客生涯価値)を上げることにより事業の健全性を保つことができます。CAC を下げる方法として、インバウンドマーケティングやオープンソースの提供があげられるでしょう。インバウンドマーケティングでは、検索エンジンからのアクセス流入を増やし、 SNS などで共有・拡散されることが期待できます。インバウンドマーケティングは、見込み客から自社のビジネスを見つけてもらえる点がコスト削減につながるのです。

また、顧客にオープンソースを公開することにより、カスタマーエクスペリエンスを向上させることができます。 Web を活用した顧客の興味関心・体験に訴求できることが CAC を下げることになるでしょう。一方の LTV を上げる方法は、クロスセル・アップセルを活用することにより、顧客の生涯価値を高めることができます。 SaaS ビジネスにおいては、顧客の現状を把握して関連する解決策を提案することを続けていくことで、顧客ニーズを高めることが可能です。

 

まとめ

今回は、 SaaS 事業における顧客1人あたりの収益性を指標とする Unit Economics と顧客獲得コストの回収期間を評価する payback period について解説してきました。2つの評価指標は、セールス・マーケティングへの資産投入を判断するために最も重要な手法となります。サブスクリプションビジネスの企画責任者は、トラックし続けることにより、自社のビジネスに落としこめる評価指標を見つけられることでしょう。

また、SaaSビジネスには Unit Economics だけでなくSales Velocityや Quick Ratio など、他にも重要なKPIが多数存在します。

サブスクリプションビジネスの成功に欠かせないKPI 10選」ではSaaS企業ではどのKPIをチェックしていくべきか詳しく解説しています。ぜひ併せて活用ください。