営業組織がスケールするためになぜ「型化」が必要なのか

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要約SUMMARY
  • リモートワークが進む中、多くの営業責任者が部下の育成に課題を感じている
  • 営業組織の型化を進めることで、育成の課題を解決し、生産性を高めることができる
  • 世の中に存在する営業フレームワークを上手く活用し、自社独自のノウハウを組み込んだ営業の型化(Playbook の作成)が今求められている

1999年以降、インターネットの発展に伴い「顧客の購買行動」「IT や DX の進展」が変化しています。そのような背景もあり、営業を取り巻く環境が以下のように大きく変化しています。

  • 顧客の要望が細分化しており、ニーズを捉えるのが難しい
  • 顧客が自ら製品やサービスに関する情報をインターネットを通じて情報収集しているため、従来の「提案型営業」が通用しなくなっている
  • IT テクノロジーの進展により業界内だけでなく、業界外からも競合が現れている

こうした環境の変化に適応するために、営業組織の「型化」が重要です。型化をすることで、持続可能でスケーラブルな組織をつくることができます。

本記事では、営業組織がスケールするために必要な「型化」について解説します。

営業のフレームワークを活用した「型化」の方法については以下の資料でもご紹介しておりますので、ぜひご活用ください。

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また、弊社では営業組織の「型化」を実現するプロダクト「Magic Moment Playbook」を提供しています。

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営業組織の型化の必要性

2023年現在、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、以前と働き方も大きく変わりました。その中で、リモートワークの進展は商談などの営業活動にも大きく影響を及ぼしています。

  • リモートワークでの営業活動
  • 商談のオンライン化(非対面)
  • フルリモートワークの中での部下の育成

こうした営業を取り巻く環境の変化は2023年以降も続くでしょう。株式会社ラーニングエージェンシーが管理職人を対象に実施した「管理職の意識調査」によると、多くの管理者が部下の育成に課題を感じています。

図1. 「管理職としてどのようなお悩みをお持ちですか?(3つ以内で回答)」(『管理職の意識調査』1)より Magic Moment 作成)

この結果を見るところ、部下の育成に課題と感じている管理職が多いことが伺えます。しかし、フルリモートでの営業活動を行う中で、離れた場所で部下を育成するのは難しいのが現状です。

また、リモートワークではメールやチャットといった文字でのコミュニケーションが中心となります。文字でのコミュニケーションでは「指示や意図が伝わりにくい」などがあり、営業の生産性が低下しかねません。

このため、リモートワークの状況下でも営業の生産性を高める仕組みが必要です。その仕組みが「型」です。

型化に活用できる営業のフレームワーク

では、「営業の生産性向上」のためにはどのような方法があるのでしょうか?それは、「営業のフレームワークを活用して型化を行うこと」です。

「型化」とは見込み顧客へのアプローチからクロージングまでの各営業プロセスにおいて、取るべきアクションや押さえるべき情報などの基準を設け、組織内で共有することです。

型化において、Playbook を作成することが重要です。Playbook とは英語で演劇における「脚本」を表します。営業活動では「組織内で使用するトークスクリプトや価格表などのドキュメント」を表します。型化のためにPlaybookの作成を行い、活用することで組織内での共通の認識が生まれ、ナレッジやノウハウの共有ができるようになります。

型化を行い、定型となる Playbook を作成するには、フレームワークを活用するのがよいでしょう。フレームワークとは意思決定や戦略立案などを行うための「枠組み」です。営業活動に関するフレームワークも沢山あります。その中で代表的な営業のフレームワークを3つ解説します。

BANT

1つめは BANT です。BANTは BtoB 営業で利用されるフレームワークの1つです。

BANT とは「Budget(予算)」「Authority(決裁権)」「Needs(ニーズ)」「Timeframe(導入期間)」のそれぞれの頭文字をとったものです。法人営業における営業担当者としてヒアリングすべき事項を表しています。

図2. 「BANTとは?」(『BANTとは?事例でわかる営業ヒアリングテクニック』2)より Magic Moment 作成)

目的

BANT の利用目的は、成約に至るまでのハードルを分析するのに役立ちます。例えば、「顧客の予算に合った金額で提案可能か?」「顧客が要望する納期で納品できるか?」などです。

営業組織全体で BANT 条件を共有し、BANT を活用することで、成約に至るための戦術や行動を組織内で決めることができます。そうすることで組織全体で成約率向上につなげることができるでしょう。

型化への活用ポイント

BANT の活用のポイントは「いかに BANT 条件をそろえるか?」です。

法人営業では BANT が揃わないと成約に至ることができません。例えば、「私は御社のサービスが良いとは思うけど、私だけでは決めることができない」といったケースです。これは、BANT のうち A(決裁者)が欠けているからです。

このようにならないためにも、顧客とのヒアリングを通じて BANT の内容を把握し、営業組織内で共有しながら商談を進めることが大切です。

MEDDIC

2つめは MEDDIC です。MEDDIC は Jack Napoli 氏が考案したフレームワークです。

MEDDIC とは「Metrics(測定指標)」「Economic Buyer(決裁権者)」「Decision Criteria(意思決定基準)」「Decision Process(意思決定プロセス)」「Identify Pain(抱えている問題)」「Champion(自社サービスの擁護者)」のそれぞれの頭文字をとったものです。

先に紹介した BANT に近い指標がありますが、このフレームワークは、購買プロセスが複雑な案件に向いています。

目的

MEDDIC は「見込み客が顧客として要望かどうかを見極める」ことを目的としたフレームワークです。読み方は「メディック」です。案件の内容理解と仮説構築に役立ちます。

例えば、「Identify Pain(抱えている問題)」や「Metrics(測定指標)」を把握することで、問題解決の方法や期待できる効果を具体的に提案できます。

また、「Economic Buyer(決裁権者)」「Decision Criteria(意思決定基準)」「Decision Process(意思決定プロセス)」「Champion(自社サービスの擁護者)」を押さえることで、商談の進め方やアプローチを決めることができます。

型化への活用ポイント

MEDDIC 活用のポイントは「MEDDIC を顧客の課題を明確化し、成約に至るプロセスを明確にする」ことです。

顧客がなぜサービスの導入を検討しているのかというと、「組織が抱える問題を解決するため」です。このため、顧客が抱える問題を明確にし、問題解決に至るプロセスを提案することが必要です。

そして、成約に至るために MEDDIC の項目を用いて成約に至るプロセスを明確にします。これらを組織内で共有し、後押しすることで成約率向上につなげることができるでしょう。

SSM

3つめは SSM です。SSM は世界的なクラウドサービスの会社である Salesforce で活用されているフレームワークです。

SSM は営業担当者が顧客と商談を進めるにあたり、ヒアリング対象や検討対象項目としてまとめたフレームワークです。特に Salesforce などの外資系企業で用いられています。対象項目は以下の14個です。

図3. 「SSMは14項目ある」(『Salesforceの上位20%の営業がヒアリングしていた項目“SSM”を更にバージョンアップさせました』3)より Magic Moment 作成)

目的

一定金額以上の大型案件や、今後も大口取引につながりそうな大企業からの案件を確実に受注するために活用します。

営業担当者が商談を進めるにあたり、不確実要素をなくすためのチェックリストとして活用できます。また、受注にむけた次のアクションを明確にするなど、営業担当者の行動を明確にするためにも使用します。

型化への活用ポイント

SSM であげられている14項目のうち、特に重要なのが「コンペリングイベント」です。コンペリングイベントとは「顧客が受注予定日までに買う理由」であり、「そのサービスを買う必要がる何か差し迫った状況」です。

顧客は問題解決のために商品やサービスを購入します。その理由を明確にすることで、他の項目と関連しながら行動計画を立て、受注につなげていきます。

「型化」を実現する Playbook 入門ガイド

型化(= Playbook 作成)のメリット

ここでは「型化(Playbook 作成)のメリット」について解説します。

先に紹介した BANT や MEDDIC などのフレームワークをテンプレートとして Playbook を作成し、組織内で共有することで、能力の違いによる成果のばらつきの是正や営業生産性の向上につながるメリットがあります。

世界有数の CRM システムの1つである HubSpot では、トークスクリプトや価格設定用ガイドラインなど、営業活動に必要な Playbook をシステム内に登録できます。そして、営業担当者は HubSpot 内に登録された Playbook を参照することで、「型」に従って営業活動や商談を進めることができます。

また、セールスイネーブルメントツールの Highspot を使用して Playbook を作成し、営業担当者と共有することで、チームパフォーマンスの向上が期待できます。「成功するセールスプレイブックテンプレートの7つの基本要素」には、同社が推奨する Playbook の要素について公開されています。

営業マンのトーク事例

Playbook としてトークスクリプトが用意されているのと用意されていないのでは会話にも差が発生します。以下で Playbook がある場合とない場合の具体例を示します。

Playbook がない場合

「この度はお問い合わせいただきありがとうございます。弊社の最新ソフトは○○が特徴です。一度お話をさせていただけないでしょうか?」

Playbook がある場合

「この度はお問い合わせいただきありがとうございます。御社では人事領域で新たな取り組みをお考えでしょうか?弊社のソフトを利用することで○○の効果があると考えますがいかがでしょうか?」

Playbook が用意されていない場合は、トークが以下の流れになりやすい懸念があります。

  • 機能に関するアピールが多い
  • 顧客にお願いする流れになりやすい

また、Playbook が用意されていない場合は営業担当者のスキルの差が顕著に表れます。Playbook には社内に蓄積されたノウハウを組織内で共有できる効果もあります。

一方、Playbook が用意されている場合は以下の流れでトークを進めることができます。

  • 顧客を知り、仮説を持っている
  • 顧客が提案を歓迎する流れになりやすい

このことからも、顧客の問題解決につながるトークになりやすく、顧客からも歓迎される流れになりやすいことが分かります。

若手営業担当者がベテラン営業担当者のノウハウを活用しながらトークを進めるためにも、Playbook を用意することをおすすめします。

Playbook作成(型化)が営業組織にもたらす効果

Playbook がない場合と Playbook がある場合とでは、ノウハウの共有、人材育成、営業活動の進め方など、様々な局面にて違いが表れます。以下の図は Playbook がない場合とある場合の違いを局面毎にまとめたものです。

図4:Playbook がある組織とない組織の違い(Magic Moment 作成)

「Playbook を見ると状況を把握できる」「担当者に聞かないと分からない」など、特に情報共有において大きな差が表れており、Playbook を作成することで、平準化に繋がることが分かります。

また、以下の効果も営業組織にもたらします。

  • ハイパフォーマンスな営業担当者のノウハウを結集した営業オペレーションの標準化の実現
  • 個人スキルの底上げによるチームの営業生産性の向上
  • モチベーションの向上による離職率の低下
  • 新卒人材の育成、中途人材のキャッチアップの高速化

その中でも、特に高く評価されているのが「個人スキルの底上げによるチームの営業生産性の向上」です。

コンテンツマーケティングスペシャリストであるAyushi Sanghavi 氏が抜粋した統計情報4)によると、雇用主がクラス最高のセールスイネーブルメント戦略を組み込んでいる場合、営業担当者の84%がノルマを達成していると明かされており、セールスイネーブルメントを導入している組織は、予測された取引で49% の成約率を達成していますが、セールスイネーブルメントを導入していない組織の場合は 42.5% です。

このように、 Playbook の導入によって「型」を用いながら営業活動や商談を進めることで、「営業生産性の向上」をはじめとした多くの効果を営業組織にもたらします。さらに、生産性を向上させることで、リクルート活動などにもプラスの影響があります。

「営業の型」をつくることで得られる効果も詳しくご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。

型化(= Playbook 作成)の要素

では、 Playbook にはどのような要素を盛り込めばよいのでしょうか?

Playbook の要素

Playbook には以下の要素を含めます。

  • フェーズとゴール
  • 達成項目
  • 合意形成項目
  • ヒアリング項目・ToDo 項目
  • スクリプト
図5:Playbookに盛り込むべきこと(Magic Moment 作成)

それぞれの項目について解説します。

1.フェーズとゴール

1つめは「フェーズとゴール」の設定です。ここでは、営業プロセスを各フェーズに分けて可視化し、各フェーズの状況を定量的な指標で分析・管理できるようにします。このとき、各フェーズのゴールを明確にします。ゴールとは「該当フェーズを完了すべき目標と完了基準」です。ゴールを明確にすることで各フェーズでやるべきことが明らかになります。

2.達成項目

2つめは「達成項目」の設定です。達成項目とは「各フェーズのゴールを達成するための細分化したゴール」です。例えば「ナーチャリングフェーズでは、まずは信頼関係を構築する」などです。これを決めることで、各フェーズのゴールに至るための詳細な行動計画を立てることができます。

3.合意形成項目

3つめは「合意形成項目」の設定です。ここでは、商談を前に進めるにあたり、顧客と合意形成すべき項目をあらかじめ決めておきます。例えば「顧客の課題は何か?その中でも優先課題は何か?」などです。顧客との合意形成項目をあらかじめ決めておくことで各フェーズで行動すべきことが明確になり、フェーズのゴール達成につながります。

4.ヒアリング項目・ ToDo 項目

4つめは「ヒアリング項目・ ToDo 項目」の設定です。顧客のニーズ・課題・状況などを確認するためにあらかじめヒアリングすべき項目を明確にします。また、商談を進めるうえて確認が必要な項目も対象となります。

5.トークスクリプト

5つめは「トークスクリプト」の設定です。ヒアリングや商談などで顧客とのトークやコミュニケーションの進め方を、具体例を交えながらまとめます。これにより、経験が浅い若手の営業担当者も、顧客とのコミュニケーションの取り方をイメージできるようになります。

型化のための Playbook の作成ステップ

では、 Playbook はどのようなステップで作成すればよいのでしょうか?ここでは、 Playbook の作成ステップについて解説します。

Playbook は以下のステップで作成します。

1.フェーズ/ゴール/達成項目の定義

営業プロセスを分離し、受注するために必要なフェーズ・タイミングで目指すべきことを定義します。

2.合意項目/ヒアリング/項目の精査

受注する為には、どのような内容をヒアリングや合意する必要があるかを精査します。

3.スクリプトの作成

商談にて参考となるスクリプトを作成します。

4.確認

実際の営業活動を行うにあたり、 Playbook に過不足ないかを最終確認します。

5.運用・改善

Playbook を用いた営業活動を実施します。そして、定期的に見直しを行いながら改善します。

図6: Playbook の作成ステップ (Magic Moment 作成)

上記5つのステップの中で最も重要なのが「運用・改善」です。Playbook 作成当初は過去の商談などを元に各項目を整理します。とはいえ、実際に運用を開始すると、当初の想定と異なる点や運用上不都合な点が発生します。

このため、見直しと改善が必要です。運用後にも協議しつつ、定期的に見直しを行うことで Playbook が強固になるとともに、営業担当者の育成、ひいては営業生産性の向上にもつながります。

そのため、まずは小規模で実験的に試してみることも手法としてはおすすめです。

まとめ

  • 多くの管理職が部下の育成に課題を感じる中、コロナ禍でも成果をあげるためにはオンライン営業の強化が必要
  • オンライン営業の強化には「BANT」「MEDDIC」「SSM」などのフレームワークを用いた Playbook(型化した営業プロセスやドキュメント)の作成が有効である
  • Playbook を作成することで、能力のばらつきの是正や営業生産性の向上につなげるメリットがある
  • Playbook の作成は、「1.フェーズ/ゴール/達成項目の定義」「2.合意項目/ヒアリング/項目の精査」「3.スクリプトの作成」「4.確認」「5.運用・改善」で行う

本記事では、営業組織をスケールさせていく強力な施策のひとつとして、自社の営業組織に最適な Playbook を作成する取り組みをご紹介しました。

Accel を運営する Magic Moment では、自社に最適な Playbook を作成するための手順をこちらに纏めておりますので、是非ご活用ください。

また Magic Moment では、成果につながる営業の「型化」を実現するプロダクト Magic Moment Playbook を提供しています。プロダクト詳細は こちら からご確認ください。

Magic MomentPlaybook ご紹介

《引用文献》

1) 株式会社ラーニングエージェンシー、”【管理職1,070人の意識調査】管理職の悩みダントツ1位は「部下の育成」/”部下の成長を感じていない”管理職が5年前の3倍に|ニュースリソース|人材育成・社員研修”、株式会社ラーニングエージェンシー、2020-07、https://www.learningagency.co.jp/topics/20200727_03、(参照2021-06-25).

2)Keywordmap ACADEMY、”BANTとは?事例でわかる営業ヒアリングテクニック”、Keywordmap ACADEMY、2020-05、https://keywordmap.jp/academy/bant/、(参照2021-06-25).

3)DJ141、”Salesforceの上位20%の営業がヒアリングしていた項目”SSM”を更にバージョンアップさせました”、DJ141、2019-12、https://note.com/dj141/n/n5a425af3ac79、(参照2021-06-25).

4)SALES&MARKETING MANAGEMENT、”sales-enablement-statistics”、SALES&MARKETING MANAGEMENT、2023-02、https://salesandmarketing.com/sales-enablement-statistics/、(参照2021-06-25).