サブスクリプションビジネスとは?大企業が直面する課題とその解決策

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要約SUMMARY
  • 日本大手 SIer (システムインテグレーター)をはじめとして、近年厳しい競争環境に身を置かれている大企業の多くが、サブスクリプションビジネスの立ち上げに取り組み始めている。
  • しかし、フロー型とストック型のビジネスの違いが社内で理解されずサブスクビジネスの業績が過小評価され、経営資源の投資に踏み切れないため、事業が拡大できない状態に陥る大企業が散見される。
  • サブスクリプションビジネスの収益は「1受注から期待できる売り上げと、回収までにかかる時期の予測」が重要になる。そのためには CLTV や Unit Economics などのサブスクリプション ビジネスで重要とされる主要な指標に基づいた判断を行うことが必要である。

近年サブスクリプションビジネスに熱い視線が集まっています。

実際、日系大手 SIer(システムインテグレーター)をはじめとして、近年厳しい競争環境に身を置かれている大企業の多くが、安定した収益源の確保として、サブスクリプションサービスの立ち上げに取り組んでいます。

一方、これまで収益を上げてきたビジネスモデルとは見るべき指標や組織体制もまるで違うため、サブスクリプションモデルを立ち上げようとしても、売上拡大に苦戦するケースが増えています。

そこで本記事では、大企業がサブスクリプションビジネスに取り組む際、直面しがちな課題や解決策に迫ります。

サブスクリプションビジネスの成功のためには、KPIを可視化し、適切な施策を講ずることが重要です。

サブスクリプションビジネスに特に欠くことができない10の KPI について、多くの企業が直面している課題と解決のヒントについてこちらの資料で解説しています。無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。

→ダウンロード:サブスクリプションビジネスの成功に欠かせない KPI 10選

サブスクリプションビジネスとは

サブスクリプションビジネスとは、サービスや製品を利用する期間や回数に対して料金を支払う課金提供型のビジネスです。

利用者は一定期間分の利用料金を支払うことで、サービスや製品を利用する権利を得ることができます。

事業者側からすると、従来の売り切り型ビジネスと比較して、継続的・安定的に売上を積み上げることができるビジネスモデルです。

サブスクリプションビジネスの流行の背景としては、「所有」や「購入」より「利用」や「共有」を重視するようになった消費者の購買行動・価値観の変化や、スマートフォンやインターネットの普及・進歩が挙げられます。

SaaS 市場の急成長

サブスクリプションビジネスの中でも「SaaS」と呼ばれる市場が急成長しています。スマートキャンプ社の調査によると、SaaS の世界市場は9.7兆円にも達すると言われています。また、年間平均成長率も約20%となっています。

→あわせて読みたい:SaaS とは?わかりやすく解説 – Accel by Magic Moment

サブスクリプションビジネスのメリット

利用者側のメリット

クラソフトウェアが SaaS として提供される場合、顧客はソフトウェアをオンプレミスでインストールするのではなく、クラウド上にあるものを必要な分だけ利用することができます。自社の利用期間や頻度などに応じて支払額が変わるため、顧客は低リスクで導入できるメリットがあります。また解約や他のサービスへの移行が容易である点もメリットとして挙げられます。

事業者側のメリット

事業者側のメリットは大きく2点です。

  1. 継続的・安定的に売上を積み上げられる(=売上の予想が立てやすい)
  2. 顧客の利用状況をリアルタイムで把握し、サービスの改善や新規顧客獲得の戦略策定ができる

そもそも、日本で最初に「SaaS」という言葉が注目され出したのは、実は2008年のことでした。リーマンショックの最中、Salesforce をはじめ、数々の SaaS のユーザーが急拡大していました。

そして SaaS ビジネスはここ数年でさらなる盛り上がりをみせています。毎月のように新たな SaaS スタートアップが誕生するだけでなく、大企業も新規事業としてのサブスクリプションビジネスに果敢に投資しています。

クラウド技術などのテクノロジーを活用して高い収益性を確保しつつ、安定性の高いストック型収益をもたらす SaaS。市場環境が瞬く間に移りゆく中、企業が淘汰されることなく生き残るためには、SaaS をはじめとした、サブスクリプションモデルの事業に取り組むことが鍵となるといっても過言ではありません。

大企業のサブスクリプションビジネスが伸び悩む原因とは?

潤沢な人的リソースや顧客基盤、そしてブランド力。どれをとっても、大企業の新規事業が成功するための材料は揃っているかのように思えます。

それでもサブスクリプションモデルの事業が伸び悩んでいるヒントは、「本来豊富にある会社の経営資源が、新規事業になかなか配分されない」という状況にありました。

なぜ経営資源が新規事業に配分されないのでしょうか。私たちが理由を調査した結果、「売上が少なく、経営資源を優先的に充てられない」と経営者が考えていることが明らかになりました。

確かに、成熟した既存事業に比べれば、新規事業の売上が少なくなるのは仕方がありません。一方、事業成長を実現するためには、当然適切な経営資源が必要になるため、中長期的に得られる収益を正確に捉えて、今いくらまで投資することができるのかを判断する必要があります。

ところが、ここに落とし穴があります。従来のフロー型(売り切り型)の考え方に当てはめてサブスクリプションモデルの事業を評価してしまうと、実はサブスクリプションモデル事業は大幅に過小評価となってしまうのです。
なぜ過小評価となるのか、実際に生じていた事例を調査してみました。

サブスクリプションビジネスと従来のフロー型ビジネスの違い

「一つの売上が、来月も繰り返されるかどうか」

サブスクリプションモデルのビジネスとフロー型ビジネスの最大の違いはここにあります。

そして、大企業がサブスクリプションモデルのビジネスを拡大するにあたり、「意思決定者がこの違いを理解しているか」が、投資判断の正しさを左右します。

フロー型ビジネスとストック型ビジネス

フロー型ビジネスの特徴は、一回の受注ですべての利益が確定することです。またそれにより、受注のために投じたコストと比較することで、費用対効果(ROI)をすぐに評価することができます。

一方、サブスクリプションモデルのビジネスをはじめとするストック型の特徴は、売上が一定の間隔で繰り返され、継続的に利益を回収できることです。そして顧客が継続契約することによって損益分岐点に到達し、はじめて利益が生み出されます。このように受注にかけたコストを「回収」します。

非常にシンプルな例ですが、以下のようなイメージです。

下の図は、以下の2つの受注を対比しています。

  • フロー型売上: 1回の受注で120万円の獲得
  • ストック型売上: 1回の受注で月額10万円の獲得

仮に、双方で受注までにかかる販管費が30〜40万円だとすると、今までの指標では最初の3〜4ヶ月では赤字評価となります。

また、これは一つの受注のみを想定しており、通常の事業のように複数の受注がある場合、合計の赤字額はそれだけ増えることとなります。

中小企業向けのサブスクリプションモデルのビジネスでは、月次解約率約4.2%がベンチマークです。そうであれば、案件は平均的に24ヶ月継続する計算となります。

(参考: ユーザの平均継続期間が「1/解約率」で求められることの数学的証明)

受注から2年経過した時、当初は最終的な売上総額が不明確だったストック型売上は、フロー型売上の2倍にも達します。

ここで重要な点が2つあります。

  • 解約率が明らかになれば、1受注が生み出すの期待値が推定できるようになる。故に、顧客獲得に費やせるコストがわかるようになり、例え短期的に赤字に陥ったとしても「投資するべきである」という意思決定が下せる。
  • 受注によって得られる収益は常に「期待値」で考えるべきである。それを理解できなければ、投資できる予算は適正水準を下回ってしまう。(十分に投資することができなければ、先に競合他社に市場を占有されてしまう恐れがある)

投資を増やすことで、将来積み上がる収益を増やせるのであれば、競合他社に顧客を取られる前に可能な限り顧客獲得に投資すべきという合理的な判断が下せます。

「収益を期待値で判断すべきか、実数値で判断すべきか」ということが、根本的な違いになるということです。そのため、事業責任者や経営者はサブスクリプションモデルのビジネスならではの経営指標を参考にしながら、「どれくらいのリソースが適切であるか」を説明し、それに基づいて意思決定をすることが大切でしょう。

サブスクリプションビジネスの成功事例

そうはいっても、サブスクリプションモデルの特性を理解して、上記のような意思決定をしっかりできている企業は本当にあるのでしょうか。

そこで、「売上を期待値とした企業評価のみで、株式証券市場に上場し、市場に認められている企業がある」という事実と、その企業の実際の数値をご紹介します。

サブスクリプションモデルの事業を展開する以下のような企業が、 PL 上は大幅な赤字の中で上場を果たしています。

1.freee
  • 上場年: 2019年
  • 赤字額: 27億円 – ソース
  • 黒字転換時期: 本稿公開時点(2020年1月)時点で赤字
2.Sansan
  • 上場年: 2018年
  • 赤字額: 9億4500万円 – ソース
  • 黒字転換時期: 本稿公開時点(2020年1月)時点で赤字
3.Chatwork
  • 上場年: 2019年
  • 赤字額: 1億1000万円 – ソース
  • 黒字転換時期: 本稿公開時点で赤字

上記のような企業は SaaS 企業であるため、サブスクリプションビジネスの特性を踏まえた意思決定ができていますが、従来の売り切り型ビジネスに取り組んでいた組織の文化や考え方が変わるには、想像以上に時間がかかります。

これまで実績値に基づいて意思決定していた組織が、いきなり期待値に基づいて意思決定できるようにはなりません。参考にすべき指標や打つべき施策について、理解を深め続けることが大切です。

サブスクリプションビジネスで見るべき評価指標

では、具体的にどのような指標を見るべきなのでしょうか。

先述したとおり、 投資判断をする上で意識すべきサブスクリプションモデルのビジネスの収益は、あくまで「期待値」であり、フロー型ビジネスとは異なります。一ヶ月ごとの売上のみを計測することは、サブスクリプションモデルのビジネスにおいてはあまり意味を成しません。それよりも「1受注から期待できる売上と、回収までにかかる時期の予測」が重要です。

サブスクリプションモデルのビジネスで見るべき指標を網羅することは難しいですが、中でも重要な指標の例を挙げます。より網羅的な情報にご興味がある方は、ぜひ「サブスクリプションビジネスの成功に欠かせないKPI 10選」を参考にしてください。


CLTV (Customer Lifetime Value)

「顧客生涯価値」とも言われる、1顧客あたりから得られる合計収益を指します。
販管費をどれくらいかけられるかを議論するのに必要不可欠な数字の一つです。
ストック型では、解約率が CLTV に直接影響します。 (参考: 解約率は成長の上限を決める)

ユニットエコノミクス

CLTV に対して、CAC(1顧客の獲得にかかった費用)を比較した指標です。
現時点でどれだけ効率的に顧客獲得ができているかを示します。

Quick Ratio

Quick Ratio とは MRR の増加分と減少分の比率です。
事業の成長の「質」を示しており、成長企業では4以上であることが理想とされています。

売上マルチプル (PSR)

時価総額を売上と対比した数字です。売上の年平均成長率が30%以上あれば、売上高の10倍またはそれ以上の時価総額で評価されますので、売上成長率のベンチマークとなります。

まとめ

サブスクリプションモデルのビジネスをはじめとするストック型ビジネスは、意思決定をするために見るべき指標や設定すべき KPI、考え方がフロー型ビジネスとは全く異なります。

適切な KPI や重要指標を網羅し推移を分析することで、本来あるべき経営資源から、事業で取り組むべき優先課題も詳らかにすることが出来ます。

サブスクリプションビジネスの経営状態を評価するためには

  • 重要指標を算出する上でデータが整理されている状態
  • 重要指標から示唆を得て、アクション可能な状態にまで言語化する
  • 今すぐ改善すべき指標がないか、参考数値と比較すること

といったことに取り組むことが重要です。いかに必要なデータが構造化され、事業で適切な打ち手を下していけるかが、サブスクリプションビジネスにとっては鍵となるでしょう。

まずは弊社が制作した「サブスクリプションビジネスの成功に欠かせない KPI 10選」を用いて、見るべき指標を整理することからはじめてみてはいかがでしょうか。