営業組織の DX の方法論

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要約SUMMARY
  • 営業DXにおいて、鮮度の高いデータに基づく経営判断と最適なリソース配分が競争力に直結する。
  • 顧客との長期的な関係が収益に直結するビジネスにおいては、契約・購入後のコミュニケーションを担うカスタマーサクセスの重要性が増している。
  • エンゲージメント型営業組織のカルチャー醸成には、従業員の自主性・創造性を重視した組織構造が必要。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、2018年に経済産業省による DX レポートが公開されてから、ビジネス界隈に広く知れ渡りました。現在ではコロナ禍でのテレワーク需要によりその動きが加速しており、2020年には DX というキーワードがトレンドの1つにもなりました。

DX は、経済産業省による DX レポートの中で、以下のように定義されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

当記事では、DX の中でも営業に焦点を当てた営業 DX の全体観と方法論について、そして営業領域の DX を実行するための具体的なステップとアクションについて解説します。

詳しくはこちらからも無料でご覧いただけます。

営業組織の DX 取り組みの全体像

営業組織の DX という生産性の向上に直結する改革には時間がかかります。多岐に渡る営業プロセスに対して時間をかけて改革を行うことは、すべての企業が簡単に実行できるわけではないからです。だからこそ競争優位性につながります。

営業組織は、単に営業部門を指すのではなく、営業にあたって必要となる戦略、業務、それを支える人材プロセスの総体を指します。営業組織の DX というのは、営業部門内の一部を最適化するのではなく、営業に関連するプロセスの全体像を意識して行うことが重要です。

戦略プロセスにおいては、データを起点とした経営管理が新たな常識となっています。そのためには正確性の高いデータを適時に手軽に収集可能なデータプラットフォームの構築が重要です。営業戦略の策定はまず戦略的セグメンテーションにより対象を定め、その上で開拓方法の決定とリソースの配分を行います。

業務プロセスにおいては、顧客起点の営業プロセスと、業務で活用するツールの最適化、そしてデータ分析に基づくPDCA オペレーション構築が必要です。

人材プロセスにおいては、自社の現状と理想の姿を定量的・定性的に定め、そのギャップを埋めるための採用・育成を行います。顧客との関係性が長期化する昨今、顧客エンゲージメント主義の組織文化への変革と、個人主体の組織形成が重要になっています。

営業 DX :経営管理

鮮度の高いデータに基づく経営判断が競争力に直結

現代のビジネスにおいて、企業が収集できるデータは質・量の両面で増加しています。例えば従来の顧客データに加えて、購買データ、利用機能、Web ページ訪問履歴など多種多様なデータが利用可能になりました。

利用できるデータが多岐に渡る現在、リアルタイムな鮮度の高いデータに基づく経営判断が、競争力に直結します。

特にサービスの利用データを入手しやすいサブスクリプションビジネスでは、データの多様化が顕著です。データを活用することで、選択できる戦略の幅や精度が大きく向上します。

鮮度の高いデータに基づく経営判断は、データの収集・加工・分析のサイクルの中で実行すします。これからの経営管理において、リアルタイムな鮮度の高いデータに基づく経営判断が競争優位性の源泉となる中、このデータの収集・加工・分析のサイクルを支えるデータPF(プラットフォーム)の必要性が高まってきています。

また、顧客との関係性が長期化するこれからの経営管理では、受注額や売上といった指標から、顧客との中長期的な関係性を重視したエンゲージメントを表す指標が重要になってきます。

データ分析から得られる気づきを基にアクションを立案

顧客起点・正確性・リアルタイム性という3つの要件を満たしたデータによって、ビジネスの「いま」を可視化することは、正しい戦略策定や意思決定のための絶対条件です。

データを分析し、導き出される「気づき=インサイト」に基づきアクションを立案します。

この分析 → アクション → 分析 → …の流れを間断なく繰り返すことが正しい意思決定の肝となります。

分析とアクションを繰り返すことにより、戦略策定のための判断指針の精度が高まり、問題の発見・解決の早期化とその確度が向上します。その結果、事業全体の見通しの解像度を高めることができます。

特にサブスクリプションビジネスは、成功するための具体的な指標やベンチマークが判明しているため、データ分析の結果に基づいた判断を下しやすいという特徴があります。

事業全体の収益を測る指標だけでなく、サービスがどれだけ顧客にとってかけがえのないものになっているか、営業活動がどれだけ効率的に機能しているかなど、リアルな現場を表す指標の把握することができます。

サブスクリプションビジネスにおいて、指標に基づくデータ分析は、ボトルネックの改善や成長のためのアクセルを踏むタイミングの見極めといった、事業を正しくハンドリングするための意思決定に大いに役立ちます。

営業 DX :営業戦略

営業戦略におけるセグメンテーションの重要性

営業戦略においてセグメンテーションは、多角的な観点からマーケットを俯瞰し、「どこを捨てるのか?」を明確にする上で重要な分析手法です。

最小のリソースで最大の成果が得られるよう、軸(切り口)を設定してリソースを投下する対象を分類します。効果的な軸の設定・分類を行うためには、顧客と自社の製品・販売活動の深い理解が不可欠です。セグメントごとのポテンシャルを考慮していないと、思わぬ機会損失を生むことになります。

リソースを投下するセグメントが定まったら、次に限られた期間の中でそのセグメントのどれだけをカバーするのか、どのチャネルでカバーするのかを検討しながら、具体的な営業戦略に落とし込んでいきます。その時に、以下の3つのポイントについて具体的に落とし込みます。

  • 選択したカバレッジやチャネルに対して、各チャネルでかかる販売期間(リードタイム)や行動量を加味して社内リソース(人員・資金等)の分配を決める
  • カバレッジ最適化:各セグメントをどれだけの割合を狙うのか目標となる水準を最適化する
  • チャネル最適化:チャネルの費用対効果を測定しながら、チャネルそのものの新設・改廃を決める

選択したカバレッジやチャネルを支えるリソースの分配(アロケーション)やオペレーションの最適化には、実行されているオペレーションの可視化が欠かせません。

オペレーションの可視化には、顧客に関するデータを構造的かつ一元的に管理し、セグメントごと・チャネルごとに費用対効果が見える化されていることが重要です。活動状況、成果を見ながらオペレーションに対するリソースの分配を見直します。

既存チャネルに加え、現在ではオンラインチャネルなど取りうるチャネルの幅は広がっており、チャネル内のオペレーションに変化があることも見逃せないポイントです。

代理店との関係維持ではなく、経営改善を目標にする

また、多くの BtoB 企業で主要なチャネルの1つである代理店チャネルについては、代理店を単なるチャネルのうちの一つと捉えず、「自社の商品を販売する顧客」として考えます。

代理店との関係維持を目指すのではなく、代理店の経営改善を目標にします。この時、代理店の抱える営業リソースを可視化して、パートナーエンゲージメント向上に向き合うことが大切です。

営業 DX :基幹プロセス

購買プロセスの変化と新たな営業プロセス「The Model」の導入

インターネット上でやり取りされる商材やサービスに関する情報が増えたことで、購買側が営業担当者と接点を持つ前に収集できる情報の量と質が高まりました。それにより、顧客の購買プロセスに大きな変化が起こりました。顧客の購買プロセスの変化により、営業組織は大きな転換を求められています。

近年では、営業プロセスの効率化を図るため、The Model と呼ばれる分業型の営業体制の導入を進めている企業が増えてきています。The Model の特徴として、以下の3点が挙げられます。

  • これまで一人の営業担当者が担っていた営業活動の機能を分解
  • 商談につながるアポイントを創出するインサイドセールス
  • 既存顧客のアップセルやクロスセルを創出するカスタマーサクセスなどの部署も新設

しかし、The Model はあらゆる課題を解決するわけではなく、組織・ツール・データの3つの分断という新たな問題を引き起こすこともあります。

  • 各部門が活動の量・率・結果のみを追うことで発生する営業の非効率性
  • ノウハウの分断や部門・メンバー間での役割認識の齟齬
  • 部門ごとのツールの導入による情報の断絶
  • データの非構造化

顧客の変化に合わせた新たな営業プロセスとして導入される The Model ですが、上記のような組織・ツール・データの分断を生み、かえって顧客体験を損なう結果につながるケースも多いのが現状です。

「The Model」の課題解決には、部門の制約を超えた営業プロセス、ツール、データが必要

こうした問題の解消には、顧客の行動や体験に基づく購買プロセスの全体に対して、マーケティングからセールスまで一気通貫でアプローチする営業プロセスと、それを支えるツール・データが必要になります。

ただし、CRM やツールのデータを繋ぎ、顧客起点でデータを統合的に参照可能にするには、データ収集・統合に膨大なコストがかかるケースが多いのも事実です。

このようなツール・データ分断の問題を解決し、マーケティング・セールスを支える新たな選択肢として Sales Engagement Technology (SET) というテクノロジーも登場しています。

こうして構築したプロセスについては、各部門同士の活動の関係性(影響や相関)を考慮して、部門横断的に PDCA サイクルを回していく体制で改善を図っていく姿勢が重要です。事業目標の達成に向けて各部門の連携を生み出し、結果として営業生産性を高めていく流れが理想的だといえます。

営業 DX :成果創出プロセス

顧客の購買プロセスの変化により、顧客開拓の営業スタイルにも変化

顧客の購買プロセスの変化や、顧客との関係性が長期化したことによる営業プロセスの変化は、顧客開拓のスタイルや契約・購入後のサポートが担う役割にも変革の圧力を与えています。

顧客開拓では、総当たり的な営業スタイルから、顧客となり得るターゲットを絞り、適切なサポート・情報提供を続けることでスムーズな商談へ繋げる営業スタイルへの変革が始まっています。

中でも、デジタルマーケティングによるリード獲得とインサイドセールスによるリード育成が注目されています。新型コロナウイルスの影響で、訪問営業や対面での展示会が制限される現在、この流れは更に加速することが予想されます。

海外で普及しているインサイドセールスは、現在日本でも普及が加速しています。インサイドセールスが盛んな米国では、業種や業態によらず7割の営業活動が非対面で実施されています。2019年の日本のインサイドセールス導入率は1割程度ですが、1年以内に導入を予定している企業を含めると4割近くなり、今後日本でもインサイドセールスの導入が加速していくと予想されます。

ノウハウ情報へのアクセスは簡単だが、自社に合わせた導入に苦戦

これらの手法に関する情報は、オンラインで簡単に調べることができますが、それにもかかわらず、自社に合わせた形で取り入れるのは困難だと感じている企業は多いのが現状です。デジタル化が進んでいる企業も進んでいない企業も一様に苦戦しています。

オンラインで流通する手法やノウハウに関する情報はいわば公約数的な情報なので、自社に合わせた形で最適化するラストワンマイルが障壁となっています。

自社に合った形で新しい営業スタイルを取り入れるために重要なのは、マーケティングや営業という部門ごとの制約を超えて、受注まで見据えた顧客起点の営業プロセスを構築することです。

購入後のカスタマーサクセスの重要性が増している

また、顧客との長期的な関係が収益に直結するビジネスモデルにおいては、契約・購入後のコミュニケーションを担うカスタマーサクセスの重要性が増しています。従来のサポートが担っていたような、顧客からの問い合わせに対する受動的なサポートは限界を迎えています。

今後は、顧客の状態を予測し先回りして成功を手助けする。能動的なカスタマーサクセスの重要性が増してきます。能動的な対応を行うためには、まず顧客に関するデータが社内に散らばった状況を是正した上でデータを整理し、顧客のことを広く深く知る必要があります。

また、カスタマーサクセスはマーケティング、営業、製品・サービス、財務の全てに影響が及びます。そのため、トップダウンかつ全社レベルでの取り組みを徹底し、カルチャーとして根付かせることを、何よりも優先して実施します。カスタマーサクセスが機能するためには、戦略・業務・人材のすべてのプロセスの連携が重要です。

営業 DX :組織

組織の営業力を強化し競争優位を築くためには、新たな力を手にするための採用や育成と、今ある力を最大限生かすインセンティブ設計が重要なテーマとなります。

営業力強化のための採用と育成に向けて、まず組織の現実と目標を言語化する

採用や育成に取り組むためには、現在の組織のケイパビリティと、目標とする組織のケイパビリティを言語化することから始めます。組織に必要な能力・スキルを把握できていないと、どのような人材が必要なのか分からず、結果、どのような育成が必要なのかも分からないという状況に陥ってしまうからです。

組織の現実と目標を明確化した上で、そのギャップを採用・育成という手段で埋めていきます。チームとしてどの部分のケイパビリティが不足しているのかを把握した上で採用・育成プロセスを回します。これは人材のミスマッチや早期退職、ランアップの長期化といった採用・育成リスクの低下にも繋がります。

組織のケイパビリティを見える化するためには、営業オペレーションの可視化が前提となります。自社の営業において、

  • 何に対して、
  • どれくらいのリソース(量)を投下し、
  • どの程度の効率性(質)で、
  • どのような時間軸で動いているか

を全て見える化することで、各営業担当者が創出している成果を同じ基準で比較することができます。

そこから、組織に本当に高い貢献をしている(新規・継続顧客を合わせて獲得総額が高い)トップセールスの特徴を見つけ、組織が理想とする営業スキルを定義します。理想的な営業担当者を定量的・定性的に定義することで、採用育成のゴールが見えてきます。

ここで初めて採用・育成計画を立案することができます。これまでなんとなくで行われてきた採用・育成計画も、データを用いることで科学的なアプローチが可能となります。

営業担当者の能力を最大限に生かすにはインセンティブが有効

また、各営業担当者の持つ力を最大限生かし、成績向上と退職率の低下を実現するためには、各営業担当者のモチベーションを高めるインセンティブに効果があることが知られています。

営業組織におけるインセンティブとは、営業成果・活動に対して追加報酬を設計することを指します。

算定のタイミングや金額、変動率など制度の設計は非常に自由度が高い反面、営業戦略と担当者の行動が乖離しないような考慮が必要です。

まずは新規開拓を中心としたインセンティブ設計から始め、徐々にシフトしていくやり方が一般的です。

営業 DX :文化

顧客との信頼関係構築を重視する「エンゲージメント型営業組織」を目指す

変化の激しい現代において勝ち続ける強い組織であるためには、組織の根底を支える文化を醸成することが肝要です。組織文化は時代が変化しても変わらない組織の根幹を成すものです。組織が大切にすることを1人1人が心の底から理解し、日々の行動で体現することで、文化として根づいていきます。

顧客主義やカスタマーファーストという、顧客を重視する言葉は組織内で広く使われていますが、組織として顧客を重視する実態が伴っていないことが散見されます。

顧客主義を阻む要因の一つとして“新規顧客の獲得” に偏重した文化があります。現代の営業は、売り方のツールやテクニックが注目され複雑化しがちですが、営業の本質は顧客との信頼構築です。

いま目指すべき営業組織が、「エンゲージメント型営業組織」です。これは、顧客と信頼関係を構築し価値を提案し続けることができれば、顧客は自然と対価を払ってくれるという考え方に基づいた営業組織を指します。

売り切り(獲得)型の時代が終わり、顧客との中長期的な関係性が重要視される現代においてこそ、今一度、この本質に立ち返るべきだと言えます。特にサブスクリプションビジネスでは、従来の獲得型の営業組織とエンゲージメント型の営業組織とで長期的な収益に大きな違いが出ます。後者の方が最終的な収益性が高くなります。

エンゲージメント型営業組織のカルチャー醸成には、従業員の自主性・創造性を重視した組織構造が重要

エンゲージメント型営業組織を目指す際、組織カルチャーの変革を現場起点で起こすことは難しいのが現状です。長く続いた獲得型営業からのシフトは簡単ではなく、現場の摩擦にも耐えうるような経営トップの強力な意思決定と長期的な取り組みを推進する強い覚悟が必要です。

また、顧客エンゲージメント主義の徹底には、従業員1人1人の意識の変革も欠かせません。顧客を知り、継続的な価値の提案を続けるためには、組織や上長からの指示を待つのではなく、現場での能動的な動きが重要となります。

現場での能動的な動きを実現するためには、従来のピラミッド型の組織構造やトップダウン的な目標設定ではなく、従業員の自主性・創造性を引き出す新たな組織構造や目標管理手法が必要です。

そのような時代の流れを反映して考案された新しいフレームワークのひとつにOKRがあります。OKRとは、主にシリコンバレーの大企業やスタートアップで円滑な組織運営のために実践されている目標設定・管理手法です。

モチベーションを高めるような挑戦的な目標(Objective)と定量的にその達成度合いを測る結果(Key Result)を会社、チーム、個人の3者間で紐づけて構成されます。

OKRの手法によって組織の目標が各社員の目標にまで落とし込まれることで、これまでの部門間・役職間の垣根を超えた主体的でオープンな組織の実現に近づけることができます。

OKRは目標管理ツールとして強力ですが、その一方で社員の人数+チームの数のOKRを作成しレビューする工程が発生します。この分の管理コスト・教育コストが必要になることをあらかじめ規定しておく必要があります。

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当記事で解説した営業組織 DX の方法論について、より詳細な資料をご用意しております。気になる方はぜひこちらをダウンロードしてください。

まとめ

  • 営業組織のDXには時間がかかるが、だからこそ競争優位性になる。
  • 鮮度の高いデータに基づく経営判断が競争力に直結する。
  • 営業戦略においてリソースを投下するセグメントが定まったら、社内リソース(人員・資金等)の分配、カバレッジ最適化、チャネル最適化を決定する。
  • 営業プロセスの効率化を図るため、The Model と呼ばれる分業型の営業体制の導入が進んでいる。The Modelの課題である組織・ツール・データの分断に対する解決には、部門の制約を超えた営業プロセス、ツール、データが必要。
  • 顧客との長期的な関係が収益に直結するビジネスモデルにおいては、契約・購入後のコミュニケーションを担うカスタマーサクセスの重要性が増している。
  • 採用・教育においては、自社の現状と理想の姿を定量的・定性的に定め、そのギャップを埋めていく。
  • エンゲージメント型営業組織のカルチャー醸成には、従業員の自主性・創造性を重視した組織構造が必要。

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