市場を勝ち抜くグロースハック実践

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テクノロジーの進化は止まる事を知りません。人工知能やブロックチェーン、ロボティクスやシェアリングエコノミーなど、新たなマーケットが続々と誕生しています。そんな激動の時代の中、次々に新しいプロダクトが生まれ、死んでいく、波乱万丈な市場で勝ち抜いていくためには、常にアップデートしていく”顧客の声”を拾い上げ、プロダクトを継続的に改善していかなければなりません。そのためには、現代 Webマーケティングにおける”グロースハック”という概念を理解し、扱いこなす必要があります。今回の記事では、あなたのプロダクトが真価を発揮するのに不可欠な”グロースハックの実践と事例”について解説していきます。

グロースハックとは?

グロースハックとは何なのでしょうか?

グロースハックの生みの親であり、GrowthHackers 社の CEO である Sean Ellis 氏の説明をまとめると、「製品やサービスを利用するユーザーから獲得したフィードバックを解析して、製品・サービスの改善・グロースを図る手法」1)のことです。マーケティングとの違いは、売れる仕組みをプロダクトの機能や設計の中に実際に落とし込むという点です。できるだけ低コストな施作で多くの顧客を獲得し、事業のグロースを測る ROI 戦略が求められます。

グロースハックの手法

AARRR 分析

効率的にグロースハックを実現するためには、ユーザーの行動変容を正しく分割することが第一歩になります。Airbnb や Dropbox のようなスタートアップ企業では、AARRR というフレームワークが主流です。AARRRでは、消費者の行動を Acquisition(ユーザ獲得) , Activation(ユーザー活性化) , Retention(ユーザの継続利用) , Referral(知人・友人への紹介) , Revenue(収益)の5つに分けています。次にそれぞれのステップで打つべき施策について詳しく紹介します。

Acquisition (ユーザ獲得)

最初のステップは Acquisition です。ここではプロダクトの新規ユーザー数を最大化するために、リーチから会員登録までのカスタマージャーニーに着目すると効率的です。リスティング広告やオウンドメディアなどを活用して初回訪問の入り口を増やしたり、訪問者がウェブサイトから離脱しないようにランディングページ最適化(LPO)や ABテストなどによってサインアップのプロセスを簡略化しましょう。

主要KPI
  • サイト訪問数
  • セッション時間
  • コンテンツダウンロード数
  • サインナップCVR

Activation (ユーザ活性化)

次はユーザが初めてサービスを体験する段階です。ユーザーがサインアップしただけでは、プロダクトの価値が十分に伝わったとは言えません。例えば Uber の場合、タクシーよりも低価格で移動できるという体験をすることができなければ、二度とアプリを起動することはないでしょう。そういった事を回避するために、オンボーディングを通じてユーザーに”アハモーメント”(思わず膝を叩いてしまうほどの腑に落ちる瞬間)を素早く体験してもらうことが大切です。

KPI 例
  • セッション時間
  • セッションのスクリーン数
  • コンテンツ消費数
  • 一日のリテンション率 など

Retention (ユーザの継続利用)

次は初回利用後もユーザが定期的にサービスを利用する段階です。マーケティングにおける1:5の法則では、新規顧客の獲得は既存顧客の維持に比べて5倍もコストがかかるといわれています。ロイヤリティを高めることが LTV の向上に大きく寄与することは言うまでもありません。顧客の属性・関心を元にセグメンテーションして、収集したそれら顧客データを元に、それぞれに合わせた One to One マーケティングを行うことが重要です。例えば、ユーザーがよく利用するメールや LINE、プッシュ通知などを用いて、個人の興味関心に最適化されたコンテンツを配信する事が効果的です。しかし、何百・何千といった配信パターンやABテストを用意することは容易ではないため、マーケティングオートメーションを用いて自動化することが大切です。

マーケティングオートメーションについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

また、ユーザレビューやデプスインタビューなどでユーザーの声を聞き、UI / UX を素早く改善することも顧客満足度の上昇、ひいてはリテンションに寄与します。

KPI 例
  • 再訪問率
  • MAU
  • DAU など

Referral (知人・友人への紹介)

次はユーザーが知人や友人にサービスを紹介する段階です。既存顧客の推薦による新規顧客獲得は、CAC を抑えられるだけでなく、成約率も高い傾向にあります。ここで大切なのは、顧客が知人に紹介したくなる理由を NPS 調査などから解析し、それに基づいたモチベーションを刺激するような仕組み作りでしょう。効果的な手段の一つとしては「紹介インセンティブの設定」です。紹介クーポンといった金銭的インセンティブが一般的ではありますが、サービスの機能拡張などもあります。

  • 紹介クーポンの配布(例:Airbnb の、紹介リンクからの新規登録による旅行クーポン)
  • サービスの機能拡張(例:Dropbox の、友達招待による容量増加)

友人にシェアしやすいウィジェット配置も心がけるべきです。シェアボタンが”スクロール時に固定されている”や”ファーストビューに配置する”などのテクニックがありますが、ABテストで検証をしながら工夫するようにしましょう。

KPI 例
  • シェア回数
  • レビュー数
  • 紹介ユーザ数 など

Revenue (収益)

最後は利用ユーザーが課金ユーザーにコンバージョンする”収益化段階です。設定した KPI を元に自社のマネタイズについて詳しく分析し、さらに収益を伸ばすために、課題と解決策を考える必要があります。いかに CAC を下げ、LTV(顧客生涯価値)を高めるかが焦点となります。顧客単価が低い場合は、既存顧客へのアップセルやクロスセルを狙うなどの施作が考えられます。適切な KPI を設定することで、収益から逆算して問題点をあぶり出し、プロセスを改善することができます。

KPI 例
  • LTV
  • CAC
  • チャーンレート
  • MRR など

成功事例【国内】

クックパッド

日本最大の料理レシピサービスであるクックパッドは秀逸なグロースハックを実践したことで知られています。有料会員を獲得するいたって行った施作のうち、いくつかを紹介します。

  • 会員登録の導線に関して大量のABテストを実施

最もユーザーを惹きつける文言・デザインを特定し、大幅な新規ユーザー獲得を達成。

  • 登録後の一定期間は課金することなく解約可能な機能

初期ユーザの母数増加に連れ課金ユーザ数も増加。

  • 誕生日クーポン・クックの日クーポン

誕生日に3か月のクーポンを配布、また9月9日クックの日には2か月分のクーポンを配布し、各施作とも、一日あたりの登録数は倍に。

  • つくれぽというユーザ同士のレビュー機能

ユーザーコミュニケーションを活発化し、”美味しい料理を見せたい”欲求を刺激することでユーザーの満足度を向上。

  • 人気順検索機能

料理を人気順に表示するというユーザーの求めていた機能を課金制で実装することで、課金ユーザー増加。

成功事例【海外】

Airbnb

部屋を貸したい人と借りたい人をマッチングさせる Airbnb は、グロースハックにより急激な成長を実現した企業として有名です。Airbnb は、サービスのローンチ当初の新規ユーザを獲得するにあたって、まず最初に”部屋を貸す側”に着目しました。

  • 他社クラシファイドサイトのユーザに Airbnb への無料掲載を提案

広告費用をかけることなく1000万ユーザを獲得。

  • シェアによるクーポンの配布(referral)

友人招待コードを打つことで割引クーポンを受け取ることができる。

  • プロのカメラマンによる物件撮影サービス

ユーザーの貸し出し物件をプロが撮影するサービスを開始、予約率・宿泊単価を向上させることに成功しました。

まとめ

グロースハックを成功させるには、最小限の投資で最大限のリターンを出すことが大切です。マーケティング部門、エンジニア、PM などの各チームが協力してボトルネックとなっている部分を洗い出し、収集した顧客データや各 KPI を参照にプロダクトを継続的に改善していくことが重要です。

KPI を定期的に観測し、ボトルネックを発見するためには、社内でデータが適切に管理されている必要があります。データを適切に管理するために必要な「データクレンジング」のプロセスをこちらの記事で解説していますので、この機会にご覧下さい。

《引用文献》

1)Startup Marketing. Sean Ellis. “Find a Growth Hacker for Your Startup”. 2010-07-26. https://www.startup-marketing.com/where-are-all-the-growth-hackers/, (参照 2018-11-26)