DX(デジタルトランスフォーメーション)で実現する次世代型の経営の視える化とは?

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DX(デジタルトランスフォーメーション)をめぐる動き

ここ数年で、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉は、企業向けセミナーやビジネス系の出版物の見出しにも多用されるようにまで浸透しました。

経営戦略においても、DX 推進を一つのテーマとする動きが見られます。DX 推進室やDX 担当といった新たな部署や役職を設立する企業も出現しました。各企業が予算も設け、実行に移すフェーズに入りつつあるということを象徴しているといえます。

一方で、実際に取り組みを始めても、成果にはまだ至っていないケースが存在するのも確かです。

  • DX という標語は社内に広まっているが、自社の事業や業務をうまく絡めた青写真がない
  • どこからどう進めていけばいいのかコンセンサスを作れない

忘れてはならないのはどの企業もこの状態から始まっているということです。

この状態から少しでも早く脱却し、変革を起こせるように、実際に成果を出した企業がどういうことをしたのか、それはどういう方法論に基づいて進められたのかをお伝えしていきたいと思います。

変わりつつある経営の視える化

IT 技術やデータ活用技術の発展を背景に、あらゆる業界の企業で新たな取り組みが始まっています。もはやデータの活用やテクノロジーの活用に積極的に投資することはスタンダードとなりつつあるともいえます。

その動きの一つとして、経営の視える化について取り上げます。事業リーダーにとって、事業の成長性を見極め、最適なリソース配置、成長投資をしていくには、事業の状況を視える形にしておくことは基本となります。

例えば下の図表のように顧客のライフサイクルに沿ってオペレーションが視える化されていると、どこが成長のボトルネックとなっているのかが把握しやすくなります。

これまで経営管理といえば、BS/PL などの財務諸表に出てくるような指標をもとに定期的に評価することが一般的でした。

それもいま変わりつつあります。その動きが特に顕著にみられる事業形態の一つとして、サブスクリプションビジネスを例に説明します。

これが、その違いを示したものです。

従来の売り切り型ビジネスでは、販売した時点で利益が発生するので、どれだけ売り上げが出ているのか推移を見ながら、事業の将来性を評価していました。しかし、サブスクリプションビジネスというのは一般的に、販売時点ではなく、顧客がある程度利用を継続した時点でようやく利益になるというビジネスモデルです。そのため、売上の推移を見ているだけでは、事業としての成長性を判断することは困難です。どのくらい継続しているのかアップセル・クロスセルにつながっているのかを見ていく必要があります。

サブスクリプションビジネスではない売り切り型のビジネスでも、既存顧客からの収益と新規顧客からの収益を分離する仕組みを新たに導入するなど、一時点のPL指標を切り取るだけでは見えなかったものを視える化する動きが見られます。

また、こうした数値を視える化する頻度を高め、リアルタイムに近づけようとする企業も存在します。ソフトバンクやユニクロが取り入れていることで有名な日次決算が一つの例です。これも事業の状況をリアルタイムで把握し、迅速な経営判断をしていくための取り組みといえます。

一口に経営管理といっても、何を見るかであったりどれくらいの頻度で見るのかは企業によって差が見られますが、経営の視える化の考え方から見直し、事業にとって重要な指標を早く知って迅速な経営判断に活かしていく動きが見て取れます。

先行指標を捉えていく次世代型の経営の視える化

経営の視える化をDX 文脈で取り組むとして、ひとつキーワードとなるのが先行指標の視える化です。

事業の状況をデータで把握し、経営判断をしていく経営管理のプロセスを簡単に図解してみると以下のようになります。

これまでは①や②を早く出来る体制を作るかというところに力を入れることが多かったのですが、売上のようないわゆる結果として確定した指標が出てからの行動となるとどうしても対応が後手に回ってしまうというケースがありました。

そこでいま、DX による実現に向けた取り組みとして、先行指標を見ながら経営判断を下していく体制構築を進める企業が現れ始めています。結果指標に先立って事業の状況を視える化する性質を持つため、よりスピード感のある経営判断をサポートします。

売上を結果指標としたときに、先行指標として見ていくものには、大きく2種類考えられます。

①将来の新規売上との関係性が強いデータ

営業プロセスの中に商談が存在するような事業では、商談の進捗データとその後の成約状況のデータの関係性を見ることで、今の商談状況から将来の新規売上を推定するという考え方です。具体例としてはPCR(Pipeline Creation Rate)という指標があります。

②将来の既存売上との関係性が強いデータ

既存の顧客からの継続収益を得ているような事業に多く見られる、サービスの継続利用具合のデータと契約状況のデータの関係性から、将来の既存売上をある程度推定するという考え方です。具体的には、解約率の実績値から近似しているLTVなどはこれにあたります。

取り組みのステップ

今回紹介したようなことを実現していくには、いくつかのステップに分けて段階的にクリアしていくことが重要です。

一つの型として、

  1. オペレーションの全体デザイン
  2. データの定義
  3. オペレーションの実装
  4. オペレーションの再構築

と進めていくやり方があります。順を追って説明します。

1. オペレーションの全体デザイン

いざ自社で実践しようとなったときに、いきなりツールの選定やシステム開発を考えてしまいがちですが、まずは業務全体の設計から見直すことが重要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みの過程で、業務において重複した活動が発生していないか、デジタル化によって効率化できる業務はどこか、どの部門とデータをつなぐと連携がスムーズにいくのかを徹底して考えることこそ、成果につながるDX の肝ともいえます。なぜ重要かというと、この部分ができていないままDX という名目でツール導入やシステム開発に着手すると、データの連携や業務の連携でかえって非効率を生む原因となることが多いためです。

この段階で、マーケティングや営業といった販売部門(フロントオフィス)の間、経理や法務といったバックオフィスとの間でデータがどのように共有されることが望ましいのか、自社に合う形で業務をデザインします。

2. データの定義

業務を滞りなく進めるために、どのようなデータが必要なのか、どういう形式であればスムーズに連携・共有が進むのかを考慮しながら、扱うデータを定義します。

3. オペレーションの実装

誰がどういう形で進めるのか、データは自動で連携されるのかなど、業務の遂行と共にデータが蓄積されていく動きを詳細を詰め、実際に業務オペレーションとして運用していきます。

4. オペレーションの再構築

実行の結果、生成されたデータを収集・加工・分析しながら、オペレーションを改善していきます。

これからの経営管理に求められるものとは

1日でも早くチャンスやピンチに気づき、素早い経営判断をしていくことが重要というのは、今に始まったことではありません。これまでもこうした思いから、BI ツールやCRM / SFAツールなどを積極的に導入して視える化に試みた企業は多く存在します。

一方で初めて取り組む企業や取り組みが盛んな企業ほど、結果としてダッシュボードやExcel ファイルが社内に乱立する結果となり、データの取りまとめや分析に苦戦することが多いのが現実です。

これからは、いかに指標を最小限に絞り、必要なデータがリアルタイムに揃う体制を作れるのかが重要となります。