AIに駆逐されない営業パーソンを育てるには【後編】

 

前回の記事ではAIに取って代わられない営業がどのようなものなのかを紹介しました。本記事では、AIに代用されない営業の具体的な実践手法を、実際のプレゼン資料をお見せしながらご紹介します。

これからの時代に求められる営業とは

前回の振り返りを兼ねて、AI時代に求められる営業について簡単に説明します。
まず、AIが得意とする営業の仕事は大きく分けて3つあります。
1. お客様の行動分析
1. 営業パーソンの行動分析
1. 事務作業

AIはお客様の膨大な行動データを一気に読み取り、見込み顧客ひとりひとりの興味を分析・コンテンツを自動送信することができます。さらに、営業パーソンへも応用できます。営業パーソンの営業行動を分析することで、どのような行動が成果に結びつくのかを明らかにし、営業チーム全体の効率性の底上げが臨めます。最後に、事務作業をあっというまに、かつ正確に行うことができます。実に営業活動の7割以上は事務作業であり、直接的に利益を生み出すものではありません。こういった仕事をAIに上手く任せることができれば、営業効率は格段と上がります。

そうして生み出された時間を活用して、営業はより付加価値を高める業務に取り組むことが求められています。それこそが本来私たち人間が取り組むべき、人間力を活かした本質的な営業の仕事なのです。

人間力を活かして営業する方法

人間社会は「共感」と「協力」によって発展してきました。同様に、営業活動においても顧客の経営理念に寄り添った提案をすることが大切です。そんな営業スタイルを実現するためには、以下の4つのポイントを改善することがおすすめです。

①ターゲット選定

①のターゲット企業は、『AIに駆逐されない営業パーソンの育て方前編』で述べた、曖昧な課題感を持つ、より上流の営業ステージの顧客のことです。見込み顧客ばかりを追う営業、つまり解決すべき課題がかなり具体化し購買意欲が明確な企業だけをターゲットとするのではなく、まだ課題が明確になっていない顧客への営業を強化すべきだということです。これは一見営業効率が悪そうにみえますが、長期的な目線で見た時、手っ取り早いからと見込み顧客ばかり回る「量の営業」から「質の営業」へ転換できます。

②会うべき相手

次に、上流の営業ステージにいるお客様の、どのような相手に会えば良いのでしょうか。従来の営業では、お客様側の現場担当者との商談が普通ですが、新たな営業スタイルとして取り入れたい方法は、相手企業経営トップとの面談です。なぜ経営トップとの面談が必要なのかといえば、次の③話の中身に関係します。

③話の中身

新しい時代に勝てる営業を追求するなら、お客様から傾聴すべき話は、経営理念や事業ビジョンです。単に、現場レベルがその時抱えてる課題やお困りごとを話し合うだけではなく、テーマが経営自体に関わるとなれば、当然、経営トップこそ最適の話し相手になります。

④提案の中身

最後に④提案の中身です。これまでの営業では、目の前の問題に対する提案でしたが、これからは未来に向けた提案が大切となります。顧客経営層から徹底傾聴した理念/ビジョンの実現を支援するための提案や、顧客がまだ認識できていない環境変化を見込んだ先回りの提案です。

経営トップのアポイントを取りやすくする3つのコツ

それでは具体的にどう実践していけばいいのか、変えるべき4つの重要ポイントのうち、①のターゲット企業は前編でご紹介したので、②の会うべき相手から説明します。
「これからの営業は、経営トップに会うべき」とは言っても、「トップとのアポなんてなかなか取れないし」と思ってしまう営業パーソンが多いのではないでしょうか。そこで、経営トップとのアポイントメント獲得に必要な心構え、知っておきたいコツを列挙します。

①目的を正しく伝える

ストレートに「経営トップにお会いしたいのですが、その目的は、弊社の商品のご提案に先立ち、御社経営トップの経営におけるご意向を直接伺うことです」と伝えることが重要です。一番良くないのは、よくありがちな「ご挨拶に伺わせてください」や「一度、お顔合わせに」といった曖昧で遠慮がちな申し込みです。理由は、挨拶という行為に対する価値評価が低下しているからです。その背景には、人間関係構築より経済的合理性をより重視する時代があります。

②顧客の担当者を巻き込む

直接、秘書室などに連絡するのではなく、必ず自分のカウンターパートに話を通すことです。担当者の立場からすれば、自分の知らないところで頭越しに上層部と連絡を取られるのは非常に不都合で不愉快です。だからこそ、単に連絡役を勤めてもらうのではなく、「担当者を巻き込む」ことが大切なのです。その上でのコツは、担当者にとっても価値のある話であることを強調することです。例えば、「Aさん(相手担当者)への商品ご提案に先立って、御社社長の経営のご意向や戦略、また現在大切にしようと考えていらっしゃることを、直接伺うことは可能ですか?ご提案の方向性がブレずに済み、Aさんのお仕事がしやすくなるのではとも思いますが、いかがでしょうか」といったものです。

③上司を使う

3つ目のコツは、営業パーソンが自社の上位職者を巻き込むことです。逆に言えば、マネージャー層は、営業パーソンが相手企業の役員クラスとのアポ取りを進めやすくするように手を貸してあげることが大切です。上司が名前を貸してあげることで、経営トップと会える確率は、何倍にも高まります。

経営トップが関心を持つ領域を理解する

次に、実際に経営トップとの面談を取り付けた後、どう話せばいいのでしょうか。これを考える上で、第一に心得るべきことは、経営トップは企業活動における各種要素・テーマのうちどんな領域に関心を持っているのかを理解することです。

企業活動の要素は、ピラミッド型の4階層に分けて考えることができます。この4階層は、互いに目的と手段の関係になっています。一つ上の階層が目的で、下が手段です。つまり、①理念・ビジョンを実現するための手段が②戦略、その戦略を実現するための手段が③業務・オペレーション、③を円滑に行うために④が必要と言った関係です。これを踏まえると、経営者が関心を持ってるのは、①理念・ビジョンと②戦略です。社長の話したいことに焦点を合わせることがポイントで、その焦点こそが①の経営理念やビジョンなのです。

経営理念とは何か

「経営理念を聞き出しましょう」と言っても、具体的に何をどう聞いていいのか分からないビジネスパーソンは案外少なくありません。そこで、経営理念についてより具体化して説明しましょう。聞き出す観点は以下の2つに尽きます。それは①何を大切にしているか、②何を目指しているかです。

①の何を大切にしているかは、価値観を問うことになります。例えば、企業によっては、思いやりを大事にしているところもあれば、それより物事を客観的に捉えることが大切だというところもあるかもしれません。あるいは、従業員の働きがいを大切にしている、従業員だけでなく従業員の家族が幸せになることが大事だという企業など、様々あるでしょう。②の何を目指してるかも千差万別でしょう。とたえば、誰より地元の顧客に愛される会社を目指したい、世界中の顧客に受け止められる会社になりたい、会社の仕組みを整備して、より効率的に運営できる組織を目指したい、などです。

経営理念の裏にある3つのストーリーを掴む

経営突破から聞き出す経営理念を、表面的な言葉に終わらせず、より深く語ってもらうために聞き出したい、3つのポイントがあります。

①その理念・ビジョンを抱くに至ったストーリー

1つ目は、なぜその理念・ビジョンを抱くに至ったのか、原体験ともいうべきストーリーです。
例えば、数店舗の靴磨きショップを経営している経営者から「世界中の人の靴と人生に輝きをもたらす」といったビジョンを聞かされても、そのことがだけでは、「ふ〜ん、そうですか」程度で終わってしまいます。しかし、彼がそう思うに至った人生の物語を聞けば、彼の言葉に対する理解、共感性は飛躍的に高まります。
若い頃に働きすぎて身体を壊し会社を辞め、生活費を稼ぐために路上で靴磨きを始めたこと。そこで顧客に「へたくそ」と言われ、靴磨きという仕事そのものを馬鹿にされたと感じ、悔しさがこみ上げたこと。それ以来、靴磨きという仕事のイメージを覆したくて、努力を重ねた日々。そんなある日、顧客から「あなたに磨いてもらった靴を履くと自分に自信が湧いてくる」と言われ涙がこぼれたこと。それをきっかけに、「靴磨きを通じて人を励まし、人生を後押しできるような存在になりたい」と強く思うようになったこと。
言葉にこうした肉付けを行うことで、価値観への理解は深まります。

②その理念・ビジョンが実現した時に現出する世界とは、どんな姿か

2つ目は具体的な未来絵図です。その理念を実現したら誰が喜ぶのか、その周囲ではどんな人たちが笑顔を見せているのか。未来の情景が具体的なシーンとして共有できれば、その理念の中核にある価値観を共有することにも繋がっていきます。
先ほどの靴磨きショップの例で言えば、ピカピカに磨かれた靴を履いた営業パーソンが「自信を持って顧客と話せるようになりました」と語っているシーンや、政治家や経営者が靴を輝かせながら「この靴なら誰に見られても安心だ」と言っているイメージです。ビジョンを実現した時、どのような未来が待っているのかを共有することがポイントです。

③その理念・ビジョンを実現するために、どういうシナリオを描いているのか

3番目は理念に向かって、どんなステップで進むかのシナリオです。そのためには、戦略について尋ねることになります。どんな戦略を持ってそのビジョンを実現するのか、そのシナリオです。
先ほどの例で言えば、ハイクラスの男性にターゲットを絞り、お店は丸の内や表参道に出店する。お店は高級カクテルバーのような仕様にして、靴磨きはバーカウンターの上で行う。スタッフは全員スーツを金がら立って仕事を行い、顧客はカウンター越しに座り飲み物を飲みながら靴の手入れの様子を見ることができる、といった展開イメージです。

経営層から戦略を引き出す方法

戦略を聞き出すというと、難しく考えてしまう人も多いでしょう。しかし、戦略とは次の4つに集約されると考えれば案外難しいものではなくなるはずです。

①どの領域で勝負していきたいのか
②その中で、自分たちの強みをどう伸ばしていくのか
③誰をターゲット顧客にするのか
④自社の強みを、ターゲットごとに、どういう価値に置き換えて提供するのか

これら4点を聞き出せれば、顧客企業の経営戦略はほぼ理解できてしまうと言えます。

経営理念に寄り添ったプレゼンの構成

ではこのような経営理念に寄り添ったプレゼンはどのような構成から作られるのでしょうか。まずは現在主流のソリューション営業提案書の構成からみてましょう。

良くない営業提案書の構成

典型的なソリューション営業プレゼンの構成は以下のようになっています。
①表紙
②環境整理
③課題整理
④課題解決のソリューション提案(商品/サービス)
⑤見積もり概算

この典型的なソリューション営業のプレゼンは、構成自体は決して悪くはないのですが、②の環境整理は誰がやっても同じような結果になります。③も提案に先立って顧客から開示された情報を整理しているだけなので競合との差はつきにくいものです。結果的に、④のソリューション提案も、顧客としてはある程度予測できる内容になります。顧客からすると論理的に違和感こそないものの、驚きや感動もないのです。この状況で競合と差別化をすれば、価格や取引条件で優遇することになってしまうでしょう。これではせっかくの提案営業も条件競争に陥ってしまいます。

ではどうすればいいのでしょうか。次に、経営理念に寄り添ったビジョナリープレゼンの構成をみてみましょう。

良い営業提案書の構成

ビジョナリープレゼンは以下の構成でできています。
①表紙
②臨場感の湧くビジョン
③ビジョンを実現したい個人的な理由
④ビジョン実現までの道筋やアイデア
⑤具体的な商品/サービス
⑥見積もり概算
*③は資料にする必要はありませんが、この提案の肝になります。

①の未来志向のタイトルと②の提案ビジョンは常に未来のことを考えている経営者の心を惹きつけます。③の個人的な理由/体験談には説得力があり、それ自体で人は心を動かされます。例えば薬剤師転職支援企業への営業では、

「薬剤師の友人が、何度転職しても人間関係が上手くいかなくて悩んでいて、よく飲み会の席で愚痴を漏らしていました。話を聞くうちにいつも彼女が悩んでいるのは、人間関係の中でも、パート薬剤師との人間関係だということに気づきました。しかし、前回の転職では、『オーナーが良い人』という理由でパート薬剤師の多い調剤薬局を転職エージェントに紹介され、言われるがまま転職することになりました。結局、オーナーに会うことはほとんどなく、古株のパート薬剤師に嫌われてしまい、他のパート薬剤師との関係性にも悩むことになってしまったというのです。その瞬間、彼女や彼女と同じような立場にある転職希望者が、いきいきと輝くように働ける環境を見つけられるようにしてあげたい!という衝動に駆られ、今日の提案を考えてきました。」

というお話があれば、営業担当者の本気度が伝わり、聴き手は自分もそのビジョンを達成したいと思い始めます。この時点でこのビジョンは誰か一人のビジョンではなく、その場の全員のビジョンに変わっていきます。しかも④ではビジョン実現に向けての現実的なアイデアが提示されるため、「できたらいいな」が「すぐにでもやりたい!」という実現意欲に気持ちが変化するのです。

これが、理屈よりも共感を重視したビジョナリープレゼンテーションの構成です。このスタイルをぜひ営業の引き出しとして加えてみてください。予期せぬ成果が期待できるかもしれません。

実践・経営理念に寄り添ったプレゼン資料例

では次は実際にプレゼン資料を見ていきましょう。
これから紹介するのは、私が作成したBtoB商材を取り扱う企業のサービス提案資料です。デジタル広告のマーケティング企業が、薬剤師の転職紹介サービスを行う企業に、自社サービスの導入を提案する資料です。それでは1スライドずつ見ていきましょう。

表紙

ビジョナリーなタイトルで聴き手の心を惹きつけます。
ソリューション型のタイトルでは、例えば、「広告マーケティングサービス導入による見込み客数向上施策のご提案」となります。これでは施策内容は分かっても、聴き手は惹きつけられません。

臨場感が湧くようなビジョン

臨場感が湧くようなビジョンは、常に未来のことを考えている経営者の心を刺激します。

ビジョン実現を妨げる顧客の現状

顧客の現状と、それを放置することで起こりうる負のインパクトを明示し、聴き手に対策を講じる必要性を感じさせます。

ボトルネック

ビジョン実現までの道筋

ここでは2つポイントがあります。①ビジョンの実現に向けて、現実的なアイデアを示すことで、「できたらいいな」という気持ちを「すぐにでもやりたい!」に変化させること、
②道筋を3〜5ポイント程度に聴き手が分かりやすいようにまとめることです。

私たちがお手伝いできること

私たちが顧客のビジョン実現のために提供できる価値を、端的に説明します。

お見積もり金額

上記では、BtoB商材を扱う企業のサービス提案資料を説明しましたが、参考程度にBtoC商材を扱う企業のプレゼン資料も以下に用意しました。飲料水メーカーがファミリーレストランへ新規企画の提案をした資料です。様々な事例をみて、研究してみてください。
https://docs.google.com/presentation/d/1apETfMFG-TloMNzT8k0eEH1uZOZkFWrGg3fyS_8Hm-8/edit#slide=id.g4a5e928b9f_1_24

まとめ

「AIに駆逐されない営業」では、経営トップから経営理念を引き出すことが重要なポイントでした。しかし、日々の業務が忙しくて、なかなかそういった本来するべき仕事に手を回すのは難しですよね。そんなご担当者様には、非効率な営業活動を明らかにする「ROI Analytics」がおすすめです。現状のボトルネックを客観的なデータに基づいて算出し、今行うべき施策を知ることができます。ROI分析やCAC分析をはじめとして複雑な指標を素早く可視化することで営業効率を向上させたい方、ただいま無償で提供しておりますのでぜひご利用ください!

ビジネスの重要指標を可視化する「ROI Analytics(無料)」の問い合わせはこちら

roi_analytics_1

参考文献

株式会社プレジデント社、高橋研著(2018)『AIに駆逐されない営業力実践!インサイトセールス』